妄想で世界を変えてやるっ!
僕は今疲れ果てていた。よって教室の机につっぷしひたすら惰眠を貪る。やはり僕には僕の妄想をコントロールする事は出来ないらしい。それどころかコントロールしようとすればするほど流れが破綻してゆく。今思えば『ニサンカ』はいいやつだった。僕の妄想に忠実だった。ちゃんと負けてくれた。
ところが学園編はなんだっ!僕の設定は無視するは、話ははしょるは、挙句の果てに僕抜きで盛り上がりやがった!特に最後のは許せんっ!僕は僕の妄想の中では主人公だぞっ!その主人公に「あら、いたの?」はないだろう!スカート捲るぞっ、ゴルぁー!
でも今回の妄想でも良い事はあった。人生初のチューを経験したのだ!くっ、僕がもう少し妄想をコントロール出来ていれば『脱、童貞』だって叶ったかも知れなかったのに惜しいことをしたぜ!
因みにあのチューは現実だ。僕が覚醒する事によって場面転換が起きているが決して僕の夢の中での出来事ではない。夢落ちっぽくなっているのは、僕が変化をすんなり受けいられるように配慮されているだけらしい。
じゃあ、他の生徒たちはどうなったのかと言うと、彼らは一旦世界ごと無に帰る。そして新しく再構成されて誕生するらしい。そして、僕が覚醒するのを合図に今までと変わらない日常を歩み始めるのだろう。
そうゆう意味では世界は僕を中心に回っているとも言える。まぁ、コントロールできないからあまり意味はないのだが。
しかし、そうなると新たな疑問が生じてくる。この世界が僕を中心に回っているなら、今世界中で起こっている悲劇も僕のせいになるのだろうか?あの戦闘も、あの災害も、あの差別もみんな僕が起こしているのだろうか?いや、逆に僕が動かないからあんな無秩序な行動をみんなは取るのだろうか?
僕は考える。考えるが答えはでない。何故ならデータが不足しているからだ。大量のデータの中から無秩序に抽出したものならそのデータは全体を反映しているものとなるが、全体で100のデータがあるのにその中の10しかデータを持っていない場合、同じ10のデータによる解析でも、後者の方が信憑性において低くなるのは統計学の基本だ。前者は10のデータ抽出を何回も試せるが、後者は何度やっても同じ結果しか出せないからだ。
だがデータがないのなら集めればよい。僕は新たに妄想することにした。今度はちょとスケールがでかいよ。何たってグローバルコーポレーションが出てくるからね。その代表的なものの名は!勿論、軍産企業体だ!
軍産企業体と聞いてただ単に兵器を作っている会社と思った人は平和ボケしている。そんな認識では鉄砲を作っているのは兵器会社だけど、兵士の軍服を作っている会社は違うと言ってしまうだろう。そんな事ではいざと言うとき論理武装が穴だらけで敵に論破されてしまい感情論でしか反論できなくなってしまう。
感情に訴えるのは民衆演説の常套手段だが信念としてはごみくず以下だ。人の感情とは移ろい易い。芸術系のスポーツでは後に演技する方が断然有利なのはみんなも知っているだろう。有名な話ではローマでジュリアス・シーザーの後釜を決める演説なんかがいい例だ。あれはブルータスの失策である。彼は民衆に対して先に演説してしまった。確かにその時は民衆の心を掴んだが後に演説したアントニウスに覆される。
だから考えるんだ。ちゃんと考えさえすれば答えは見つかる。果たしてこの世界は僕中心に回っているのか、はたまた、ただ単に僕の妄想が特別なだけなのか。僕が妄想をちゃんとコントロールできれば世界は幸せになれるのか。
しかし、現実世界の状況を妄想に取り込むには下準備が必要となる。如何に妄想とはいえ僕が想像できない事は起こしえない。まぁ、やって出来ない事はないだろうけど結果はハチャメチャのご都合主義になるだろう。そうしない為にも資料による裏付けが必要なのだ。
僕はネットで今まで検索したこともないワードを調べ始める。『紛争』『歴史』『軍事』『産業』『経済』・・、ひとつを調べると新たに知らない事が出てくる。それを調べるとまた知らない事だ。1週間を調査に費やしたが未だ満足な答えが見つからない。全く、ネットが簡単便利だなどと言ったやつは誰だ?全然便利じゃないよ!答えを誰も教えてくれない。断片の上辺だけをづらづら書き立てているだけで関連性やその強度などに追求しているやつはひとりもいないじゃないかっ!
結局僕は答えを映画と小説に求めた。やっぱり映画はいいねぇ。なんたって分かり易いもん。ぐだぐだ何万字も自論を垂れ流して結論を誤魔化している素人論文なんかより万倍分かり易いよ。まぁただ商業的にちょっと派手な演出があるのは致し方ない。そこら辺は僕の方で脳内補正を掛けなきゃな。
「タケル君、この頃疲れているみたいだけど大丈夫なの?」
妄想の世界観の設定に疲弊している僕を見て隣の席の女の子が声を掛けてきた。
「あーっ、ちょっと思うところがあってね。色々資料を漁っているんだ。」
「ふぅ~ん、どんな?」
「いや、つまんない事さ。この世界の生い立ちとか世界状況とかだから。」
「へぇ~、また随分大風呂敷を広げちゃったわねぇ。もしかして大作でも書くつもりなの?」
彼女は趣味で漫画を描いている。だから僕も小説なんかのネタ集めをしていると思ったようだ。
「んーっ、似たようなもんかな。でもお手上げだよ。ランダム過ぎて手に負えない。全く神さまってやつは混沌とした状況が好きだよな。秩序って言葉は人間が創り上げたものなのかもしれない。」
「大げさねぇ、でもだからこそ人は混沌を望むのよ。但し、対岸の火事としてだけどね。物語はその最たるものだわ。物語の中がいくら破滅しようが本を閉じれば現実に戻れるんですもの。」
「おおっ、語るねぇ。さすがはアマチュア漫画家だ。先輩と呼んで良いかい?」
「馬鹿っ、そうね、ではひとつだけ忠告してあげる。オチに神さまだけは出さない方がいいわよ。便利だけど読んでいる方は興ざめしちゃうらしいから。」
成程、もっともなご意見だ。でも今僕の置かれている状態はどう考えても神さまの悪戯だよな。いや、やっぱり宇宙人か?




