最終決戦「ジャスティス」vs「ニサンカ」
その者、金色の鱗に覆われ光を浴びて輝く者なり。長き3本の首にはそれぞれ悪を見破る心眼と悪を滅ぼす邪滅の吐息を持ち八方に睨みを利かす。そう、その神の使徒こそ我らが味方『キング○○ラ』だっ!
いや、似てはいるけど別物だ。あれ僕が妄想した対ニサンカ用専用抹殺生物です。似ているのはたまたまです。同一環境下における収斂進化です。巨大生物に対抗する生物は大抵あんな形になるんです。決して僕の想像力が貧弱なわけではない。
僕はやつに名を付けた。
『ジャスティス』
あの『ニサンカ』を悪に見立てて退治するあいつにふさわしい名前だろう。
ジャスティスは相模湾をニサンカ目掛けて進んでくる。映画のやつは空を飛んだが僕のジャスティスはそんな非科学的なことはしない。うんっ、僕の中では・・。
途中、海上自衛隊にミサイルで歓迎されたけどジャスティスは無視する。いや、内心すごく怒っているみたいだけど僕の妄想命令の方が上位になる為無視してくれた。途中、ミサイルを回避するため大旋回をして、その大波が護衛艦を2隻ほど転覆させたがこの際目を瞑ろう。
そしてとうとうジャスティスも神奈川に上陸した。その金色に輝く巨体を中継映像で見た人々は落胆のため息を漏らす。そらそうだ、みんなはあれが対ニサンカ用の対抗生物という事を知らない。やっかいなやつが増えたと思っても仕方のない事だろう。ニサンカはまだ動かない。いや、目ではジャスティスを捉えている。ジャスティスの上陸に合わせて尻尾も一振りした。だが動かない。誘っているのだろうか?それとも仲間と思っているのか?甘いぜ、ニサンカ!その余裕が命取りだっ!行け!ジャスティス。人間の正義をぶちかませっ!
僕の願いが聞こえた訳ではないだろうが、ジャスティスは最初から全力攻撃を仕掛けた。3つある頭全てから熱光線をニサンカ目掛けて放出する。だが大爆発するかと思えたニサンカはその光線のエネルギーを吸収してしまう。
しまったっ!ニサンカはこれを待っていたのか!やつは熱光線のエネルギーを取り込めるのか!僕はその光景を見て自分の失敗を悔いる。ジャスティスの熱光線はニサンカのものと同じだ。ならばそれを自らの体内に吸収できても不思議ではない。安易に同じ設定を使ったのが裏目に出た。やはりここはみんなの元気を少しづつ分けて貰うやつにしておけば良かった。
ニサンカはジャスティスからのエネルギー補給を受け、がははと高笑いしながら動き出す。だが今更後悔しても遅い、既に戦いは始まったのだ。今ある手で戦うしかない。しかし、朗報もある。ニサンカに熱光線が効かないならジャスティスにも無効なはずだ。ならば体格で上のジャスティスに分がある。行けっ、ジャスティテス!やつをぼこぼこにしてしまえっ!
僕の叫びが聞こえたのかジャスティスは猛然とニサンカに突進してゆく。そしてそのままニサンカにぶつかった。このような場合、自重の軽い方が弾き飛ばされるのが物理法則だ。ニサンカたちは現実を無視した怪物だがこの法則には従うようだ。ニサンカはまだ原型を留めていたビルをなぎ倒しながら後ろに吹き飛ぶ。
「よしっ、いいぞ!あの体型なら起き上がるのに苦労するはずだ。そのまま馬乗りになってぼこぼこにしろっ!」
僕は思わず声を出して応援してしまった。周りの人々はまだ状況が判っていない。だがジャスティスがニサンカを攻撃していることは理解できたようだ。
「なんだ?もしかして仲間割れか?」
「いや、姿形が違う。縄張り争いなんじゃないのか?」
「応援するべきなのか?やつが勝ったら、またやつが暴れるだけなんじゃないのか?」
「判らん。だがもしかしたら共倒れになってくれるかも知れない。」
共倒れ・・、確かにそれがみんなの一番の願いだろう。人間が制御できないものなど人間には厄介なだけだ。できると信じて使ったらしっぺ返しを食らうのは自然の理だ。既にこの国の人はそれを経験している。
「タケル君!」
突然僕に声を掛けたやつがいた。振り向くとそこには僕の隣の席の女の子がいる。
「ああっ、君もここに連れて来られたのか。」
「ええ、それよりあれは何なの?私には喧嘩をしているようにしか見えないんだけど。」
僕は真実を言うべきか悩んだ。だが言っても理解して貰える自信がない。
「そうだね、もしかしたら先に現れた怪物を連れ戻しに来たのかもしれない。いや、退治するのかも。」
結局、僕は誤魔化した。真実を告げても相手が理解できないのなら要らぬ混乱を招くだけだ。
「そうなの?でもあんなのが次々に現れるなんて、この国はどうなっちゃうのかしら・・。」
まったくだ、なんで怪獣や使徒はこの国にばかりやってくるんだ?日本語しか理解できないのか?いや、違うな。僕の妄想がグローバルでないだけだ。僕にもっと世界的な視野があれば核保有国のミサイル基地に出現させ、ミサイルを片っ端から無効化させられたはずだ。やっぱり、これって僕の責任なのかなぁ。
「大丈夫だよ、昔の人たちはこれまで数々の困難を克服してきた。昔のひとが出来たなら僕らにも出来るさ。まずはジャスティスを応援しよう。やつは僕たちの為に戦っているんだ。」
そう言って僕は画面を指差す。
「ジャスティス・・、あの金色の怪物はジャスティスと言うの?」
「ああっ、僕が名付けた。名は体を表す。だからやつはニサンカを倒してくれるはずだ!」
だが画面上のジャスティスは苦戦していた。ニサンカに馬乗りになったはいいが、リーチが短くて拳が相手に届かないのだ。なのでぐっと体を寄せてパンチを放つがいまいち体重が乗っていない。ペチペチとニサンカの体を叩いているだけになっている。
その時、ニサンカの尻尾がジャスティスを振り払った。そうか、格闘戦においては腕より尻尾の方が威力があるんだな。だがそうなるとジャスティスは不利だ。ジャスティスにも尻尾はあるがニサンカに比べると貧弱だ。長さも短い。くそっ、やっぱり飛べるようにしておくべきだったか!それなら空中からの落下攻撃で足に全体重を乗せられたのに・・。
ジャスティスを振り払い起き上がったニサンカは猛然とジャスティスに襲い掛かる。今度は運動エネルギーをもったニサンカの方が強い。だがふた周り大きい自重のおかげでジャスティスはなんとか持ちこたえた。だがニサンカはすかさず尻尾でジャスティスの足を払う。
「ギャーッ!」
怒りの咆哮を発しながらジャスティスは倒れた。そこにすかさずニサンカの尻尾が鞭のように襲い掛かかる。2度、3度と尻尾を振るわれる度にジャスティスの金色の鱗が剥がれ空を舞う。
だがジャスティスもやられっ放しではない。3つある頭の内のひとつが尻尾に噛み付いた。そして思いっきり引っ張る。尾を引っ張られバランスを崩したニサンカをジャスティスはそのままぶんぶんと振り回した。何トンあるのか知らないが見ているだけで恐ろしくなる光景だ。あのまま放したらここまで飛んでくるんじゃないのか?だがジャスティスもそこいら辺は考えているのだろう。付近でまだ破壊されていない一番大きい建物目掛けてニサンカを放った。哀れ、造るのに何年も掛かったであろう巨大建築物は3秒掛からずに瓦礫と化した。だが、ニサンカ自体は傷ひとつ負っていないはずだ。
ビルの瓦礫を掻き分けて立ち上がったニサンカは、怒りを熱光線に乗せジャスティスの周りにぶちかます。ジャスティスに直接当てても吸収されるだけなので周りの建物に八つ当たりしたのだろう。だが元々ふたつの大型怪獣が暴れまわった場所には無事な建物は一棟もない。しかし、ジャスティスも癪に障ったのかニサンカ目掛けてやり返す。哀れ、まだ無事だった場所もジャスティスの熱光線により忽ち崩壊していった。
「タケル君・・、このままじゃ町が無くなってしまうわ。」
僕の腕にしがみ付きながら彼女が言う。確かにまずい。このままプロレスごっこをされては被害が増すばかりだ。
「ジャスティス!奥の手を使うんだっ!」
僕の叫びが聞えた訳ではないだろうが、ジャスティスは僕が対ニサンカ用に唯一考えた新兵器『二酸化炭素融解液』をニサンカに浴びせた。これはA、B、Cの各溶液をそれぞれの首から放出することによりニサンカの表面で化学合成するものだ。よってジャスティス自体には影響がない。
そしてこれは効いた。二酸化炭素融解液を浴びたニサンカの表皮は忽ち溶け始めたのだ。
「やった、勝てるぞ!」
画面を見ながら僕はガッツポーズを決めた。見ていた他の人も希望の感嘆を漏らす。
「やったのか?あの金色のやつが勝つのか?」
「あの液体は何なんだ?酸か?ここまでは流れてこないよな?」
「あそこら辺に私の土地があるんだが汚染物質じゃないよな。」
みんな、勝敗の行く末が見えた事により安心したのか、今度は自分の今後に関する事が気になり始めたようだ。
「グオオオオッー!」
断末魔の雄叫びを上げニサンカは動きを止めた。そしてやつは高濃度の二酸化炭素を放出しながら塵となって消えていく。その最後を見届けもせず対抗馬としてやつと戦ったジャスティスはひとり静かに海に戻って行った。
よかった、これでこの国の安全は取り戻した。ジャスティスは新たな脅威と見なされるかも知れないが多くの国民にとってあいつはヒーローだ。云わばこの国の守護神である。もしかしたらあいつを主人公にした映画が作られるかもしれない。だからいつもは無責任に国民を煽るマスコミも今回は報道に慎重になるはずだ。
今回の事はその内責任問題が持ち上がるだろうけど僕の妄想だという証拠はない。結局、誰かが生贄にされるんだろうけど、まぁ、その人にも槍玉に挙げられるような言動があったと言うことだ。もしくは状況収拾の為、然るべく機関からわざとリークされたかだね。
でも大丈夫、今回の災害は甚大な被害をこの国にもたらしたが時が経てば忘れることができる。忘れてはいけないと言う人もいるが勘違いしてはいけない。つらい事は忘れてもいいのだ。そしてまた前に歩き始める。それが人生というものだから。
だけどこの時僕は失念していた。あの化け物が東京に出現した日、午前中の授業で僕は次の妄想にふけっていた事を・・。
妄想怪獣ニサンカ編-完-