表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

失敗は人を成長させる

結局、僕が役を放棄した為に生徒集会は大混乱になった。生徒集会は各クラスの代表者が集まり議論するのだが、ここではランク別の追加ポイント特典がないのだ。よって絶対多数を占める下位ランクが数で上位クラスの代表者を圧倒する。


しかし、ここで面白いのが決定を下す方法として多数決を採用していないことだ。あくまで話し合いによる全会一致がこの集会における決定方法だった。

この方法だとひとりが意固地になって反対すると採決がなされないが、これにも対応策があって代表者の交代を求める事ができるのだ。これにより個人的な意見は封印される。


もっともそれがクラスの総意だった場合は同じことが繰り返されるが、そこには数の圧力がかかってくる。同意する仲間がいれば強気にもなれるが孤立無援の状況に陥れば考えを変えるやつも出てくる。そして何回かの話し合いと妥協によって全会一致の合意を取りまとめ物事は決定される。その決定に不服な者はもはや学園に居場所はない。静かに去ってゆくしかないのだ。


しかし、言うは易しである。当然ながら集会は紛糾した。

「今回の集計結果は過去の例を鑑みても明らかに異質だ。投票用紙のすり替え等まで視野に入れ調査を行なうべきである!」

「投票用紙は既に選挙管理委員会によって確認されている。その件を再度指摘するのは選挙管理委員会の権限を貶める行為だ。選挙の根幹を冒涜しているに等しい!」


「我々は代表者である。委員会には万全の信頼をおいているが自らの目で確認し報告する義務を負っている。投票用紙の閲覧を求める!」

「今回の件は前生徒会派の不満によるものだ。公正な選挙結果に納得がいかないのならそれは自身に問題がある。潔く学園を去るべきだ!」


「住吉 千里生徒会会長候補者の、投票ポイント比率は50.04%である。つまり2票差だ。これは集計ミスを疑われても仕方がない数字と考える。よって再集計を求める!」

「1階の女子トイレの鏡が最近外された形跡があります!もしかしたら盗撮カメラを仕掛けられたかも知れません!調査をして下さい!」


うん、最後のはちょっと違う気がする。でもこの発言により何故かみんなが学園生活での不満箇所の発言を始めてしまう。


「当校は学園と銘打ちながら屋上を開放していません。これは一般世間の常識と照らし合わせてもおかしなことではないでしょうか!公立高校ならまだしも当校は私立学園です。即刻、屋上の開放を求めます!」

「私たちの学園は学年ごとに制服の色が違います。これは平等をモット-とする我が学園の気風に反するのではないでしょうか?」

「あっ、それなら男子は学生服だけってのもおかしいよな!ブレザーも導入すべきだろう。」

「朝、校門で服装検査がないのも納得できません!」

「それを言うなら遅刻者の指導もしないと駄目だろう。」

「もしかして、これって風紀委員会の策略じゃないの?油断させておいて自分たちが指摘し点数を稼ぐ策略なんだわ!」

「購買部にてデラックスハンバーグパンがすぐ売れきれるのは納得できない。あれは過当な競争を生んでいると言える。予約制を導入し希望者全員に行き渡るようするべきだ!」

「当学園はめがねっ娘比率が著しく低い!伊達めがねでいいので女子生徒全員にめがねの着用を義務付けるべきである!」

「男子の横暴だわ!個人の嗜好を全体へ反映させるのは独裁的な行為よ!」

「そうよねぇ、なら男子も規制を受けるべきだわ。私としては髪の毛は全員5分刈りにするのが学生っぽくていいような気がするんだけど?」

「俺たちは中坊じゃねぇよっ!」

「はーい!男子は掃除をよくサボるので注意すべきだと思いま~す。」

「なっ、女子だって机の移動を率先してやらねぇじゃないかっ!」


テレビに映し出される生徒集会はもはや小学生の学級会の様子となっていた。僕は教室を抜け出し集会が行なわれている体育館へ向かう。本来なら注意される行為だが、僕の妄想パワーで誤魔化した。そして体育館の壁に寄りかかり議論を眺めている戦闘ヶ原ひたちの傍に寄った。


「あら、来たの?」

「この流れは・・、お前が誘導したのか・・?」

僕は震える声で戦闘ヶ原ひたちに問い掛ける。


「所詮、生徒にとっては誰が生徒会になろうがそれ程関心がないのよ。一番大切なのは自分なの。だから各自の状況を好転できるかもしれない場を作れば関心はそちらに流れるわ。」

成程、僕も議論の場を作ったが、それを逆手に取り戦闘ヶ原は場のベクトルを変え進む先をずらしたのか。


「やれやれ、やってくれるぜ。ここまでお膳立てするの結構大変だったんだがなぁ。」

「タケル君、チカラを妄信しては駄目よ。組織なんか内からあっという間に崩壊するんだから。状況は常に変化するものだわ。何事もシナリオ通りには行かないものよ。」

僕は戦闘ヶ原の言葉に頷く。

「そうだな、この世界は僕の手の中にあると思っていたけどちょっと違うらしい。確かに手の中にはあるけど、そのひとつひとつは制御不能と言うわけか・・。」


「AIの進化によりあらゆる未来の可能性を検証できるようになっても、その結果を受け入れるかどうかは人次第だわ。予想結果に不服をもって対策を立ててもそこから再度計算しなおされる。未来は常に二者選択だわ。そして全体としては幸せな事が個人にも当てはまるとは限らない。それが今目の前で繰り広げられていることの答えよ。」


戦闘ヶ原が指差す先では、とうとう議論の中心が学食のメニューになっている。さすがは食べ盛りだ、みんな真剣だぜ。しかし、こんな白熱した議論を交わしていては何れみんな力尽きる。そして結局最後はどうでもよくなって戦闘ヶ原ひたちが提案するであろう妥協案にまとまるはずだ。


今回の生徒会事変は、僕が僕の妄想をコントロールできるか試す場であったが結果は残念なものになった。これは小説で例えるならキャラが作者の意図を離れ暴走したというのだろうか。


でも、こんなドタバタも僕が目覚めれば忽ち霧散するはずだ。ああっ、朝がこんなに待ち遠しいのは初めてだ。早く、起きろよ、現実の僕っ!


妄想独裁編-完-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ