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投票日

そして決戦の日を迎える。今日は朝から学園内は投票の話で持ちきりだ。今回の下馬表では反生徒会側がかなりいい線まで行くのではないかと噂された為、いつも投票に無気力な下位ランク層が俄然やる気を出したのだ。


僕の手元には現在のランク別生徒数とランク別の総ポイントの一覧がある。

Aランク  12人(1人当たり32ポイント)計384ポイント(10%)

Bランク  26人(1人当たり16ポイント)計416ポイント(10%)

Cランク  73人(1人当たり 8ポイント)計584ポイント(15%)

Dランク 188人(1人当たり 4ポイント)計752ポイント(19%)

Eランク 676人(1人当たり 2ポイント)計1352ポイント(35%)

Fランク 425人(1人当たり 1ポイント)計425ポイント(11%)

総合計投票ポイント3913ポイント


生徒数の合計は1400人だ。今年度が始まった時には1700人いたのだから半年で300人がこの学園を去ったことになる。その殆どは1年生だが2年や3年生にも少なくない脱落者がいた。


さて、こうして数字だけを見ると下位であるE、Fランクだけで46%を占めていることが判る。この数字が団結すれば簡単に政権をひっくり返せると思うだろう。だがこれは数字のマジックだ。実は前期でこの学園を去った者も実は投票権だけはまだ持っているのだ。それは生徒会への委任状という形で残っている。僕はその公にされていない数字を計算した一覧に目をやる。


Cランク  30人(1人当たり 8ポイント)計240ポイント

Dランク  99人(1人当たり 4ポイント)計396ポイント

Eランク 116人(1人当たり 2ポイント)計232ポイント

Fランク  55人(1人当たり 1ポイント)計 55ポイント

合計923ポイント


ここで何故Cランクが30人もいるのか不思議に思うかもしれない。実はこのランクは学園を去る前に保持していたランクなのだ。この学園を去る切欠は殆どランクダウン処分を受けた事が決断の動機である。だが生徒会はランク落ちする前に委任状にサインをさせそれを保管する。


何故学園を去る者が生徒会に有利になるような書類にサインするかと言うとやはりカラクリがある。この書類やその他もろもろの書類にサインをすれば退学時のランクが1から2ランクアップした証明書を発行して貰えるのだ。学園の実情を知っている者にはただの恩賞ランクでしかないが、それを知らぬ世間にはFとDでは受ける印象が全然違う。よって今までこの書類にサインせずこの学園を去った者は一桁しかいなかった。


次に僕は反生徒会派が作った委任状のポイントも加味した一覧を見る。


そこには総合計投票ポイントが3913ポイントから4836ポイントに増加し相対的に比率の下がった各ランクのパーセンテージが書かれていた。

委任状  計923ポイント(19%)

Aランク 計384ポイント( 8%)

Bランク 計416ポイント( 9%)A、Bと委任状だけで36%

Cランク 計584ポイント(12%)

Dランク 計752ポイント(16%)

Eランク 計1352ポイント(28%)

Fランク 計425ポイント( 9%)E、Fだけで37%


さて、これで実際のランク別勢力比率が明らかになった。これでもまだE、Fランクは37%の最大勢力を維持しているが、生徒会はこれも織り込み済みだ。先程から言っているがこの数字はあくまで全員が結束した場合の数字だ。その人数は1001人。


それに対してA、Bランクは39人である。意見を一本化するにはどちらが楽かは試す間でもないだろう。しかも基本Cランクは生徒会側である。僕たちのような異端児も居る事はいるが少数だ。Dランクも寄らば大樹の陰と考えるやつは多い。そしてそれはE、Fランクにも当てはまるのだ。


この一見すると接戦のように見える数字も生徒会側が公正な選挙によって選出されているという欺瞞を演出するためのものなのだ。


しかし、その数字にこそ生徒会側の隙を突くチャンスがある。どうゆう事なのかは開票結果が出るまでお預けだ。


選挙自体は各クラスから無作為に選出された選挙実行委員によって執り行われる。当然ながら生徒会といえど選挙運営にはノータッチである。この学園は生徒数が多いので全生徒が一斉に集まることはない。よって選挙は各教室で行なわれ、生徒たちは教室で投票用紙に自分が投票する候補者の名前を書く。


それを選挙実行委員が集め、開票作業だけが各教室に設置されたテレビへ放送される。勿論結果発表もだ。各教室から集められた投票用紙はまず枚数のチェックが行なわれる。次にランク別の投票用紙のチェックだ。この学校はDランク以下の生徒はクラスが分かれていない。つまり同じクラスにD、E、Fランクの生徒が在籍しているのだ。この学園の選挙はランクによって1枚の価値が違う為、そんな面倒な事まで確認する必要があるのだ。


そしてとうとう集計結果がまとめられ当選者の発表となる。だがその集計結果を手渡された選挙実行委員長の手が震えている。集計用紙を持って来た生徒を呼び戻して何やら確認までしていた。呼び戻された生徒の口からは「はい、規定通り3回確認しました。」とか「投票用紙は全て正式なものです。」などの言葉が聞き取れた。


選挙実行委員長は観念したのか投票結果を震える声で読み上げる。

「生徒会会長、当選者名・・、住吉 千里 (すみよし ちさと)。投票ポイント2420。比率50.04%。」

選挙実行委員長が読み上げた名前にクラスから、いや、この学園の全ての教室からどよめきが起こった。そう、名前を呼ばれたのは反生徒会側の候補者の名前だったのだ。


僕のいるCランクの教室でも信じられないと言った声があちこちで飛び交う。しかし、選挙実行委員長にはその声は届かない。選挙実行委員長は続きを読み上げる。

「同じく、生徒会長、当選者名、佐賀 玲二 (さが れいじ)。投票ポイント2920。比率60.38%。」

今度は生徒会側の立候補者の名前が呼ばれた。これで会長職は生徒会側と反生徒会側がそれぞれ当選した事になる。


「続きまして生徒会副会長、当選者名・・。」

その後も選挙実行委員長は声を震わせながらも淡々と当選者の名前を読み上げていった。結局、全ての役職を生徒会側の候補者と反生徒会側の候補者が分け合った。



「いっ、意義ありっ!かっ、開票の見直しを求めます!」

僕のクラスの女の子が突然選挙結果の見直しを唱えた。でも教室でいくら叫んでも選挙実行委員には届かないと思うけど。

「みんなっ!集計室へ抗議に行こうっ!僕たちはこの結果に納得できないっ!」

別の男子生徒がみんなを先導する。その声に同調し多くの生徒が席を立ち始めた。


「ちょっ、待ちなさい!選挙結果への不服申し立ては後日書面での提出と規約で決められています!直談判は選挙妨害として処罰の対象になるわよっ!」

僕のクラス唯一の風紀委員がみんなを諭した。


「なんだよ!お前どっちの人間なんだっ!もしかしてお前、反生徒会側のスパイなのか!」

「なっ、何を言い出すの!根拠のない言いがかりは止めてちょうだい!」

「いや、僕は常日頃、君は下位ランクに甘いと思っていたんだ。今回の事でその疑問に確証を得たよ。くそっ!反生徒会めっ!まさか、風紀委員まで取り込んでいたとは!」

「頭を冷やしなさいっ!私は風紀委員として公正な判断と行動をあなたたちに求めただけです!あやふやな根拠で風紀委員たる私を侮蔑すると告発しますよ!」

「なんだよ!同じクラスの仲間を売るのかよ!やっぱりお前はあっち側なんだな!」


頭に血が上った彼らは容易く議論の焦点がずれてゆく。自分の発言に対する反論にさらに反論する為、別の事案を持ち出しそれがまた反論の火種になっている。それはこの学園の全ての教室で起こっていた。このままではクラスごとに生徒会側と反生徒会側に分かれて乱闘になりかねない。


その時、教室のスピーカーから緊急放送が流れた。

「こちらは前期生徒会です。今回の後期生徒会の選挙結果に対して各教室で我が学園の生徒にあるまじき騒動が起こっているとの報告を受けました。本来なら今回の選挙結果を受け、午後より生徒会の交代が行なわれるはずでしたが、今回の騒動を収束させる為、生徒会会則第9条2項に基づき生徒会の交代を無期限で延期します。この件に関しては本日午後に生徒集会を召集し検討します。生徒のみなさんは各クラスにて代表者を選出し生徒集会の結果を待つように。」

緊急放送は始まった時と同じく突然終わった。繰り返すこともなかった。


「生徒集会が召集されるのか・・。」

「うわっ、俺、初めてだぜ。前回はいつ召集されたんだっけ?」

「代表者ってどうやって選出するんだよ。」

「待ちなさい、今生徒会規約を調べているから!」

前生徒会からの突然の生徒集会の召集連絡にクラスのみんなは混乱している。だが、新しい仕事を与えられた生徒たちは、それまで対立していた案件を忘れ代表者の選出に目標を切り替える。


その時、別のクラスの女子生徒がやって来て僕の耳元で囁いた。その女子生徒とは勿論、戦闘ヶ原ひたちである。

「あなた・・、一体何をしたの?」

「別に何も?ただこのままだとどちらの不満も解消されないからちょっとしたガス抜きだよ。一旦、発散させればどちらも満足して落ち着くさ。」


戦闘ヶ原ひたちの問い掛けに僕はちょっと嘘をついた。実際は全て僕が手を回したのだ。その方法は簡単。委任状の書き換えだ。本来なら全ポイントが生徒会側に入るはずだが、そこの所をちょっといじって半分以上が反生徒会に入るよう改ざんしたのだ。全部を改ざんしなかったのはこの拮抗した状況を作るためである。今や、この学園は前期生徒会と後期生徒会が混在する今までにない状況に陥った。つのりこれは混沌だ。ぬるま湯に浸かり体制の維持だけに奔走する生徒会の気質を今回の騒動は破壊する。そして破壊された後には新しい芽が息吹くものだ。


それは茨の道かもしれない。結局前の時が良かったと元の鞘に戻るかもしれない。しかし、それは生徒が自分自身で決めた事だ。誰にも文句は言えなくなる。それが今回の僕の目的だ。火傷をしたことのない子供は火を恐れない。一見、勇敢に思えるかもしれないがそれはただの蛮勇だ。この例えも火ではなく核ミサイルと言い換えればその危険性を認識できるだろう。


「まったく、一言あっても良かったんじゃない?」

「なに、スパイとは孤独でね。人を信じるスパイはスパイじゃないのさ。それに君の危機管理対処能力も見てみたかったし。」

「そう、では見せてあげるわ。ぬるま湯に浸って腑抜けていたと思ったら大間違いよ。代償は払ってもらうわ。」

「チューでいいかい?」

「ばか・・。」

そう言って戦闘ヶ原ひたちは教室を出て行った。教室では未だ代表の選出方法で揉めている。


「やれやれ、非常事態に対する備えがなってないね。代表を選出するだけでいつまで揉めているんだか。」

僕は呆れつつもその光景にほくそ笑む。そうだな、そう簡単に決められる訳がないんだ。なんせ結果次第では自分に火の粉が飛んでくるんだからな。議論ばかりしているなんて他人を批判するやつは安全な対岸で火事を見学しているやじ馬だ。自ら飛び込み、何かを成すのが若者の特権だ。無知は怖いと言うけれど知らない事によって先に進めることもある。


この後の事に関しては僕は一切干渉しないことに決めている。場は用意したんだ、後はお前たちで何とかしろよ。


しかし、なんだね。これって本当に僕の妄想の結果なのかな?僕って本当はシリアス派なのか?

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