戦闘ヶ原vs僕
そんなこんなで話は飛ぶ。今僕は戦闘ヶ原ひたちと対峙している。場所は閉館した図書室だ。
「タケル君・・。」
「戦闘ヶ原ひたち・・、あれ?いやお前、ゆうこだよな?」
僕の前には隣の席の女の子であるゆうこが立っていた。あれっ?もしかして妄想現実が終わっちゃったのか?今回はオチなしか?
「タケル君・・。」
ゆうこが再度僕の名を呼ぶ。いや、この子は戦闘ヶ原ひたちだ。でもゆうこでもある。だっ、駄目だ。今回の妄想は失敗だ。設定というか話が暴走している。
「どうしてタケル君がそちら側にいるの?あの日、ふたりで約束したじゃない。この学園を悪の手から守ろうって。あの言葉は嘘だったの?私を騙したの?」
うん、そんな話はしていないはずだけど何故か僕の脳裏にはその時の情景が浮かび上がる。
「騙したのはお前の方だ、ゆうこ!いや、戦闘ヶ原ひたち!お前は僕を利用して森下たちの情報を手に入れようとした。これは僕への冒涜だ!信じていたんだぞっ、ゆうこ!いや、戦闘ヶ原ひたち!」
だめだ、どうしてもゆうこと言ってしまう。何故だ?よく見れば顔だって体形だって違うじゃないか!何故、彼女をゆうこと認識してしまうんだ!バグかっ!とうとう僕は狂ったのか?
「どうしてそんな事をいうの?森下さんたちの組織は狡猾だからあなたが自ら潜入して情報を得てくると言ったのじゃないの!」
「なっ!馬鹿な・・、そんな事を・・。」
その時、僕の頭にその時の記憶が思い出されてきた。
「ひたち、やつらは滅多な事では尻尾を出さない。だから僕は立場を隠してやつらに近づき決定的な証拠を掴んでくる。君はそれを使ってやつらを追い込むんだ。汚らしい大人のやり方だが、それだけにやつらを出し抜くことが出来る。僕を追い込む役は辛いだろうが分かってくれ。君が僕を追及すればするほどやつらは僕を信頼する。」
「タケル君・・。分かったわ。でも私が挫けないようにお守り代わりに証をちょうだい・・。」
ひたちはそう言って眼を閉じた。僕は彼女の肩を抱き寄せ、その柔らかな唇に誓いをたてる。時々愛の言葉を囁きながら5分ほどそうしていただろうか、突然僕のスマホが鳴った。
「森下とのファーストコンタクトの時間だ。行って来るよ。」
そう言って僕はひたちの元を立ち去る。そんな僕の背中にひたちが小さな声で気をつけてと言ってくれた。僕は振り向きたい衝動を拳を握り締めて抑える。振り向いては駄目だ。これから僕は森下側へのスパイになるんだ。その間、ひたちの事は忘れなくてはいけない。そこまでしなくては森下たちから信頼を得ることは出来ないだろう。
迷いを断ち切る為、僕は走り出す。そう、今から僕は反生徒会側の人間に成り切るのだ。スパイとは非情である。秘密を守る為、僕は自分で自分に術をかける。
そして僕はひたちたちの情報を隠蔽し、ちょっと特殊技能を持った反生徒会思想を持っているいち男子生徒になった・・。
「ひたち・・。」
僕は思い出した。そうだ・・、僕はこちら側の人間だった。
「思い出したよ・・、ひたち。僕は帰ってきた。君の元に戻ってきたよ。」
「タケル君!」
ひたちは駆け寄り僕の胸に飛び込んだ。
「怖かった!タケル君がもう戻ってきてくれないんじゃないかと思ってとても怖かったの!」
そう言ってひたちは僕の胸の中で泣きじゃくる。
「ごめんよ、もしかして酷いことをしたのかい?済まない、いくらやつらの信頼を得る為とはいえ、辛い思いをさせたね。でももう大丈夫だ。やつらの証拠は押さえた。今度の投票日がやつらの最後だ!」
その時、僕のスマホが鳴り出した。僕は相手の名前を確認しほくそ笑む。
「森下からだ。やつは既に僕に頼りっぱなしだ。もはやあいつに過去のカリスマ性はない。どれ、最後の仕上げをしてくるよ。君との祝杯は選挙が終わるまで取っておこう。」
そう言って僕はひたちの涙を唇で拭いてやる。ひたちは一言、気をつけてねと言って僕を見送った。僕は振り向きたい衝動を拳を握り締めて抑える。振り向いては駄目だ。これから僕は森下へ最後の引導を渡さなくては成らない。ここで失敗しては今までの苦労が台無しになる。だから最後の勝利を掴み取るまで、ひたちの事は忘れなくてはいけない。
物事とは安心したらどこで足をすくわれるか分からない。僕は万全の体制で森下たちに対峙しなくてはならない。それが僕の使命だ。学園の体制を堅固なものにする、それが僕らカースト上位に君臨する者の務めだ!
僕は再度、自分に術をかける。準備は万全だ。さぁ、行こう。次に演じる役は打倒!生徒会だ!




