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うんっ、やっぱり先生って大変だ!

「タケル君・・、タケル君、起きてっ!もう昼休み終わっちゃうよ。」

誰かが僕に話しかけている・・。この声は聞き覚えがあるような・・。


「あれっ?ここは?確か雪山で遭難していたはずじゃ・・。」

「何寝ぼけているの、学校に決まっているじゃない。ほら、顔を洗って目を覚ました方がいいわよ。」

僕の隣の席の女の子がいつものように声を掛けてくる。あれっ?ここは・・、学校?だとしたら元に戻ったのか?


「ああっ、今回はここまでか・・。」

僕はひとり呟いた。同じ夢落ちでも、昼休みの仮眠でアレだけの体験をシュミレートするとは、僕の脳処理能力もまんざらでないな。もしかしたらスーパーコンピューター『京』を凌いだかもしれない。でも、量子コンピューターの稼動実験も成功したって言っていたからあっという間にランク落ちするかもしれない。一位の栄光は泡沫うたかた。でも一位を目指したからそこに立てたんだ。初めから二位を狙ったんじゃ立てないんだよ。


僕は洗い場で顔を洗い教室に戻る。でも途中、他の組をちょっと覗く。おっ、エミもマオもリカもいるな。あれっ、でもユキがいないぞ?あいつは別の組なのか?そう言えば僕の隣の女の子、ゆうこは今回の妄想にいなかったな。なんで?


さて、午後一番の授業は現代国語だ。残念ながら現実に戻った僕の学校の先生はあの先生ではない。いや、女性ではあるんだがちょっとお年を召している。確か僕らと一緒に教職を卒業できるのは幸せだと言ってくれた厳しいけど物腰の優しい先生である。勿論、生徒からも慕われている。そんな先生が今日は授業を中断して昔話を話して下さった。


「皆さんは今を生きているから判らないかも知れないけど、昔も色んなことがあったのよ。私はこんなおばあちゃんだけどそれでも戦争は直に経験していない。でも、私が若い時分でも世界のどこかでは戦争をしていた。あの時代でも戦争を反対する人は沢山いたけど止める事は出来なかった。いえ、それどころか始まる事を阻止する事すら出来なかったわ。」

先生は遠い目をして昔を語りだす。


「だからね、皆さんには知ってほしいの。自分が経験したことだけでなく、過去の人や今、同じ時間を生きている人たちがどう思っているかを想像してほしい。今はネットが発達したから膨大な情報がすぐに手に入る。でもネットの情報は忘れられるのも早いわ。だからじっくりと読み耽られる本を読んでください。そこには文字として書かれていない行間という声無き声が書かれているわ。」

本を読むことは成し得なかったもうひとつの人生を体験すること・・か。さすが先生、文系だね。言うことが様になっているよ。


「想像は別に文学だけのものじゃない。新しいものを生み出す原動力には必ず想像があるはずなの。あなたたちはまだ十代、時間は沢山あるわ。だから一見無駄に思える事にも少しチャレンジしてね。そして会話をしましょう。別に討論をしろと言うんじゃないのよ。お話し、・・それは共通の話題でもいいし、新しい事への期待でもいい。話しをする事によって世界は変わるわ。それは外ではなくあなたの内側の事。あなたが居て相手もいる。弱肉強食は世の常と言うけど、そうじゃない。人にとってのチカラとは心です。強い心こそが自分を律し、他人を征します。人を恐れてはいけません。でも鵜呑みにしても駄目です。自分を磨きなさい。そっと練習するのです。そして試してみましょう。何事にも失敗は付き物です。ひとしきり泣いたら涙を拭いてまた立ち上がってください。」


ああっ、これはあれだ。この前自殺した子のニュースに対する先生なりのケアだな。先生は僕ら全員に話しているようで実は特定の生徒に話しているのかもしれない。ゆっくり、そっと、その生徒のガラスのような心を割らないように・・。これが本当の先生というもんなんだな。俺なんかが妄想で演じていいような職業じゃなかったよ。


うんっ、やっぱり先生って大変だ!


妄想学園編-完-

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