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「ニサンカ」vs「国防軍」

次の日、僕の願いも空しくやつは神奈川に再上陸した。僕の妄想の産物である国防軍ではなく、治安出動した自衛隊が対応に当たるが結果は予想通りだ。でも、映画や僕の妄想と違って本物の自衛隊は撤退なんかしなかった。所謂、最後の一兵になるまでというやつだ。該当地区の避難を完了させるまでやつの足を止めるべく後退しながらも発砲を止めない。やつの関心を避難民から反らす為にわざと目立つように発砲していた。やつが放った光線のようなものでコントロールを失った戦闘機が最後の力を振り絞ってやつに体当たりした場面を見た人たちは、こんな状況にも関わらず胸を熱くしたことだろう。


やつの侵攻進路から外れた郊外の小山の公園から僕らはその惨事を見学する。既に道路は放置車両がいっぱいで避難はできない。だからここに避難してきたみんなは既にあきらめ顔だ。やつがこちらに来ない事だけを祈るしかない。


なんでこうなった?なんであんな常識はずれの化け物が現れたんだ?ここにいるみんなは心の中で自問しているだろう。だが僕はその答えを知っている。

妄想だ。やつは僕が生み出した妄想なんだ!だから僕が妄想すれば打開策が見つかるはずだ!


僕は必死に方法を考える。

やつの皮膚は硬い。戦車砲の砲弾すら貫通できないほどだ。熱に対しても自分の体内に数万度の熱源があるくらいだから効果はない。

前の妄想ではやつの血液を凝固させることでやつを倒した。だけど今はそんな事はできない。そもそも今の僕には国を説得して動かせる力もない。


他の方法を考えるんだ、僕にできる方法を!

だが妄想では簡単に思いついた方法も現実ではあらゆる法則が邪魔をする。大体、血液凝固剤だって妄想ではたった千リットルで足りちゃったからな。あいつの血液が何リットルなのか知らないがその程度の量で固まったらお笑いだ。いや、血栓が出来て血管が詰まればうまくいくか?


謎の巨大生物、心筋梗塞で死亡!みなさんも検診に行こう!

数年後に保健省のPRに使われそうだ。だが結局僕の妄想は映画のパクリだ。映画でやっていた事しか思いつかない。大体、あんな巨大生物なんか有史以来対応した文明はないはずだ。

くそっ、考えろ!諦めちゃ駄目だ!何もしないで死んでたまるか!


だけど僕の頭の中には何も浮かんでこない。アニメなら巨大怪物には巨大ロボで対抗するんだが、現在稼動可能なロボは店舗内の案内くらいしかできない。しかもサイズ的に無理があるよな。あ~っ、宇宙戦艦の艦首砲なら何とかなるかな?・・いや、倒せるかもしれないが半径100キロの範囲も吹き飛んじまう。となるとガムガムくらいの機動戦士あたりが丁度いいのか?いや、あの巨大生物は60メートルはある。ちょっと小さすぎるな。


僕はいつの間にかアニメに出てくるロボットを選別していた。あれは弱すぎる。あれの必殺技では無理だろう等、どうでもいいような事で悩んでいた。これが所謂現実逃避というやつなのか・・。だが、頭というやつは使えば使うほど混乱しつつも点と点を結び付けるらしい。


その時、僕の頭にある考えが閃いた。確かにあの映画では人間がやつに対応したけど、あの映画はとあるシリーズのストーリーを現代風にアレンジしたものだった。その元となったシリーズにはあいつ以外の怪物が人間側にたってあいつと戦うパターンがあった。


これだっ!

やつが僕の妄想の産物なら、やつの対抗馬だって僕は生み出せるはずだ!やつは僕の設定に則って地上の二酸化炭素排出源を攻撃しに来た。ならやつを倒すことを目的にしたやつより強い怪物を妄想すれば、やつを倒す為にその怪物がやってくるはずだ!


僕は必死にやつを倒す怪獣を妄想する。大きさはやつより大きい方がいいはずだ。でもでか過ぎても周りを不必要に壊しかねない。サイズ的にはふた回りくらいの大きさにしておくか。次は防御力だな。でかいだけで簡単に穴が開くようじゃ相手にならない。ここは『ニサンカ』と同等の外皮を持つことにしよう。これならやつの設定をそのまま流用できる。とにかく今は時間が惜しい。妥協できる点は目をつむるべきだ。


攻撃力は『ニサンカ』と同じ熱光線でいいだろうか?だが本当にそれでやつを倒せるのか?攻撃力と防御力は大抵バランスが取れているものだ。あの熱光線もやつにダメージを与えることは出来ても倒すとこまではいかないかも知れない。しかし、今の僕にはあの熱光線以上の攻撃は思いつけない。核爆発の威力なんてテレビでは見ているがどの程度のものなのかさえ実感できないんだ。そもそも核攻撃をさせない為にやつを倒そうと思っているのに、自分から核爆弾で攻撃したら駄目だよな。


どうする?

その時、またしても僕は閃いた。二匹で攻撃すればいいじゃないか!

ああっ、だがここである事がこの妙案の足元をすくう。僕は運動が得意じゃない。特に連携プレイというやつが苦手だ。ペアを組んだやつの動きが読めない。後になってなんであそこでパスしないんだよと言われることもしょっちゅうだ。そんな僕が妄想した怪獣が上手に連携して攻撃できる訳がない。それ処か足を引っ張り合うかもしれない。そうなったら各個撃破されて終いだ。


やはりここは時間を犠牲にしてもやつより強そうな怪物を考えなければ駄目だろうか。

その時、いきなり『ニサンカ』目掛けて落下してくる物体があった。遥か上空には特徴的な可変翼を持った怪鳥が飛んでいる。

「B-1戦略爆撃機・・。韓国からやって来たのか・・。」

そう、それは米軍の誇る音速戦略爆撃機だった。北との戦闘抑止力として去年から韓国に常駐していたはずだ。それが2機飛んで来た。となればあの落下してくるやつは『核爆弾』!


僕は即座に逃げるのを諦めた。B-1が装備しているやつなら威力はメガトン級だ。この距離ではどんな所に逃げたって助からない。ならいっそ一瞬で黒焦げになった方が楽だろう。

だが僕の予想に反して投下された爆弾は核ではなかった。米軍の付けたニックネームは『ボムマム』。全ての爆弾の母と言う名だ。重量12トン、深深度貫通能力を持った地下司令部攻撃用の爆弾である。


その爆弾は米軍の誇る高精度レーザー誘導によってどんぴしゃニサンカに命中し外皮を突き破って潜り込んだ。そして時差発火装置が起爆。衝撃波と共にやつを爆炎で包み込んだ。その衝撃は10キロは離れている僕らすら吹き飛ばす。僕はかろうじて側溝に飛び込み難を逃れたが、他の人は掴っていた立ち木共々吹き飛ばされる。さすがに飛び散ったニサンカの外皮はここまで届かなかったが、衝撃波で吹き飛ばされた家屋の残骸が周りに落下してきてすぐには顔を上げられない。ただ風向きが山から海へ吹いていた為、視界はすぐに開けた。その風はニサンカの回りを覆っていた煙も払い流す。


そしてその光景を見て僕は慄然とする。いや僕だけではないだろう。爆弾を誘導した米兵も戦果報告が出来ないはずだ。いや、確かに戦果はあった。だがそれは期待を遥かに裏切るものだ。爆弾はニサンカの背中からやつの体内に貫通した。だが深さは大したことがなかったのだろう。爆弾は確かにやつの背中を大きく抉り取った。普通ならこれでジ・エンドとなる程の大穴だ。


だがニサンカにとっては致命傷ではなかったようだ。天に向かって大きく吼えると上空を旋回するB-1に向かって例の熱光線を発射した。初撃は外したが、そこは光線である。ちょいと軸線をずらして忽ちB-1を捉える。哀れ、光線に機体を真っ二つにされたB-1は空中で分解して落下してくる。もう一機は旋回して回避行動を取っているが腹に12トンもの爆弾を抱えていては動きも制限される。忽ちニサンカの光線に追いつかれた。こんどのやつは先ほどより派手だ。多分爆弾が誘爆したのだろう。僕はこの日、二度目の側溝避難をする羽目になる。


死亡した米軍パイロットには悪いがこの攻撃で時間が稼げた。ニサンカは傷を治す為だろうか動きを止める。爆弾に巻き込まれた人は気の毒だが、これにより近隣の避難を完了させる時間ができ、僕も自衛隊のヘリにより救出された。

この時間は僕にとっても貴重である。考えるんだ。やつを倒せる最強の怪物を!


次の日、たった一晩でやつの傷は塞がってしまっていた。このままでは動き出すのも時間の問題である。だがその時僕はなんとなく晴れ晴れした気持ちであった。僕は考えた末、昨夜ある妄想をしたのだ。


そしてそれはやって来た。

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