うおっ、モテモテだぜ!
おかしい・・、確かに参考にしたラノベは熱血教師が出てきたが主役ではなかった。僕の妄想でも、彼はあくまで脇役だったのだ。だが現実化した今、僕は教師・・、もとい、講師をやっている。
これは僕の妄想を忠実にトレースしてきた今までとは違う現象だ。僕の妄想の使い方に腹を立てた宇宙人がとうとう介入して来たのだろうか?
まぁ、それはいい。どうせ考えても答えは出ないしな。どれ、次の授業だ。学生だった時は、時限別に色々な授業を受けたけど、講師となった今はずっと古典だ。朝から晩まで古典、古典、古典。さすがにこれは古典の授業が好きだった僕でもダレてくる。いや、自分の復習としては繰り返し反復学習みたいで身につくんだけど今の立ち位置は既に社会人だからな。勉強は学生の時分だけで結構だ。大人になってまで勉強なんかしたくないよ。
「おらっ、席に着け。この授業で今日の苦行はお終いだ。歯を食いしばって耐えて見せろ。」
「・・・。」
このクラスはいまいち覇気がない。いや、成績はみな良いのだが、それは主に塾によるものだ。どうやら学習環境が逆転しているらしい。
「先生、俺ちょっと腹が痛いんで保健室に行っていいですか?」
ひとりの生徒が僕に問い掛ける。
「吉田、それはもう末期癌の症状だ。保健室では直らん。諦めて写経でもしていろ。そうだな、120ページの話なんかご利益がありそうだぞ。仏にすがって極楽浄土にいくやつだ。」
「あっ、何か直ったみたいです。」
吉田は僕にボケを潰されたので素直に教科書を盾に寝ることにしたようだ。
「さて、君たちは今受験と言う競争の真っ只中にいる。その競争に勝ち残るのは至難だ。なんせ、少子化と言ってもライバルは100万人もいるからな。大学進学率がどのくらいかは失念したが、仮に50パーセントとしても50万。将来を約束される大学の学科の定員は上を見ても1万だ。つまり49万人は大学入試で脱落する。だからあんまり成績ばかり気にするな。この数字を見る限り希望大学に入れないのは普通なんだからな。大事な事だからもう一度言うぞ。高望みしても落ちるのが関の山だ。」
「ぶぅーっ!」
僕の挑発に今度はみんながブーイングを飛ばす。なんだよ、こうゆう時だけはまとまるんだな。まぁいい、ベクトルが同じ向きになるのはいいことだ。チカラが集中するからな。
「さて、そんな可哀想な君たちに古典版ハーレムである光源氏の話をしてやろう。」
「先生、それって受験と関係あるんですか?」
「当たり前だ。紫式部だぞ?古典における出題率はダントツだ。」
「私の狙っている大学は受験科目に古典ってないのよねぇ。」
「そうなのか?そんな二流大学を狙っているのか・・。もうちょっと上を目指そうとは思わないのか?」
「○○大学よっ!どこが二流なんですかっ!」
「ああっ、学科が理系なんだな。しかし、理系は夢がないぞ?所詮、知られていない物理現象を確認するだけだからな。しかも、行き着く先は産業化できるかどうかだ。金にならない研究なんか誰もやろうとしない。○○大学のトカマク型核融合炉なんか何年前の設備を使っているか知ってるか?」
「興味、ありません!」
「その点、古典はいいぞぉ。なんたって書いたのが人間だからな。物理学者なんか神が書いた暗号を解かなきゃならないから、難しすぎて夜も寝られん。だが、難解な古典のくずし文字は違う。じっと見つめているとぱっと閃く時がある。その時の感動と言ったら得も言えぬものがある。」
「先生、私たちは大丈夫です。毎回、先生の難読な文字を書き写しているんですから。先生はいみじくも国語の教師なんですから、文字にも気を使ってください。」
「あっ、ごめん。うんっ、僕もその点は情けないと思っている。自分で書いた授業計画書を後で読み返せないことなんかしょっちゅうなんだよね。これってCIAの暗号に採用されないかな?」
「解読不能な暗号は暗号としての価値はありません!」
うんっ、いいね。生徒たちも段々乗ってきた。やっぱり授業は生徒とのキャッチボールがないとね。一方的に教えてもつまらん。でも、ここからどうやって授業に戻そう・・、それが問題だ。
その後、話の流れを悪戦苦闘の末授業に戻して、終わりの10分間だけはなんとか教科書を進めることが出来た。この調子だと教科書を全部終わらせるには3年掛かるな。よしっ、こいつら全員落第させよう。そうすれば全部教えられるぞ!・・うんっ、駄目だめな考えだ。僕は今、教える側だけど生徒の時にこんな事されたら怒るよ?いや、数学なら喜ぶか?
そんなこんなで今日の授業は終了だ。いや~、今日も女子生徒からモテモテだったな。いや、これをモテモテと言ったら全国の先生方に怒られるな。
でも、なんで講師なんだろう?僕は高校生だぜ?でも、僕が知らない知識を何故かペラペラ喋っていたな。もしかして、宇宙人が憑依しているのか?今回の妄想は失敗だったかもしれない。




