街までの道のり 2
「なんだこれ……。」
ブラックが洞窟の上部を見上げた時、絶句してしまった。
そこには、あってはならないものがあった。
無数の龍と思われる爪の跡
乾いてこびり付いたどす黒い血
岩から干からびた何かの死骸が突き出ている
「これは……。」
ボアの読みが当たった、何かいる。
「なぁ、ハブ君これ……。」
「……俺が奥を見てくる。」
「え!?」
ブラックは驚愕した、ボアがまさか1人で先に進むなんて考えても居なかったからだ。
「な、やめとけよ!!」
「オレたち全員寝てる時に襲撃されたらどうする!!!」
「そ、その、ブラックさんのいう通りですよ、やめましょう!それに、明かりになるのはボクなので、行くならボクです!」
三体はお互い顔を合わせた、お互い、鋭い爬虫類の瞳を見つめる。
「なぁ、行くなら俺もついてく、いくらなんでもこれはやべーからな。」
「……。」
「みんなで、行きましょう。」
「…本当にバカだな……。」
誰に言うでもなく、言葉をこぼす。
(何かあったら、こいつらを逃がすことだけを考える、そうだ、オレの命なんて捨ててもいいだろ。)
三体は静かに、慎重に洞窟の奥へと歩みを進めた。
コツコツ
コツコツ
コツコツ
「うう岩に血が…。」
「ここら辺はまだ新しいな…これはとうとうマズい。」
「ひぃいいい、コワイ。」
やはりあたりはひどい惨状だった。
よく見れば所々に血がこびりつき、岩が崩れ、何かの骨が落ちている。
まさしく阿鼻叫喚と言えるだろう。
「結構深いな……。」
予想よりも最奥部は遠いように感じる。
慎重に進んでいるからというのもあるのかもしれないが、それにしても以外に深い。
「ぁ….…。」
「ん?ギルンくん?」
突然、恐怖をしのんで先頭を歩いていたギルが足を止めた。
「ついたな…。」
最奥部だ、まるでちょっとしたコンサートでも出来そうな広さがあり、セルマの居た林のような泉がある。
そこで違和感に気づいたのはボアだった。
泉の真ん中に、白い何か浮いているのが見えた。
「あれは何だ……。」
ボアはギルより先に歩みを進めた。
最奥部のフロアはギルの発光によってある程度全体が見える状態、彼より先に進む事は可能だ。
「……死骸だ…………。」
それは亡骸だった、巨大な水竜の死体。
水竜の尾の部分が水面から出ていたのだった。
「こいつだ…この惨状を引き起こした怪物は。」
水中はあまり深いところまでは見えないが、所々に小型モンスターの死骸がある。
さらにこの水竜の顔もうっすらと見えるが、何かに噛み付いたまま死んでいる。
「うぁ…死んでんの?」
「あぁ……。」
この水竜が暴れたに違いない、コイツにはあまり他にはみられないであろう、鋭い爪まである。
岩肌の爪痕もこいつの仕業であると考えた。
「しかし何故だ……。」
「……さーな…わっかんないわ…………。」
「……ですね……。」
何故、というのは、この水竜は何故死んでいるのかということに対してだ。
ここに突然現れたというのも摩訶不思議ではあるが、それよりも死んでいるということは。
(更なる脅威に襲われたか……だとしたらそれはどれほどのモンスターなのか…皆目検討つかないな……。)
「ハブくん…もう出ようや、生きてるのはもう何もいないだろ。」
「あ、あぁ……だな……。」
洞窟の入り口付近に戻ろうとした、一瞬。
水中の頭部と、目があったような気がした。