トラブル林
「おぉーい、何処だブラック〜。」
ザワザワと風が林の木々をざわめかせる中、1匹の全長2メートル程の二足歩行型の蛇龍が蠢く。
「ブラックー?」
林の中には蛇龍以外のモンスターの姿が一体も見えない、こんなに木の生い茂った環境で何も生物が居ないのは妙だ。
(…………。)
おかしい。
怪物が住んでいると言う噂だけで近寄ったことはなかったが、今踏み込んで見てやけに違和感がある。
こんなにも静まり返っているのは、住むモンスターが居ない。
住むモンスターが居ないのは外敵の存在があるから。
何もない様に見えて何かがある。
「……ブラック…。」
不穏な気配が漂う、早く此処を出たい。
気付いたらそんなことばかり考えていた。
「…ハブ…くーん……ぉーぃ…ゅるし…て……れょ…………。」
「ブラック?」
蛇龍は林の中心部の方角に早足で進んだ。
林の丁度中心部の方角から、風に乗って微かな声がしたからだ。
「じめ…に……ぁ…ま…………抜け…ねぇ……ょぉ…………。」
「ブラックかーーーっ!!!待ってろーーーっ!!!」
ザクザクと地面を鋭い爪で抉るように駆け出した。
程よく水分を含んだ土は雑草と共に巻き上げられ、龍の足跡を残した。
「ぉーぃ…………。」
「待ってろよバカトカゲ!!!」
「ぅ…ぇ……?」
「今向かってるからよぉ!!」
「え……えぇえええぇぇぇーーーっ!!」
「ブラック!?どうした!そんな馬鹿デカい声だして!」
「やばばばあぶぶぶぶぶくぶくぶく。」
「はぁーーー?」
何か緊急事態がブラックを襲っているのは確かだった。
仕方無く蛇龍は背中に生えたひし形に似た形の翼を思い切り広げた。
「何があったんだ!ブラック!!!」
空高く上空へ瞬く間に上昇した。
そして林の中心部らしき場所を見つけ、翼を斜めに傾け急降下した。
「……。」
誰かにぶつかったら即死させるだろう速度で降下している。
ごぉおおおっと、空を切る音がやけに煩く聴こえた。
「…………着陸!!」
青々とした大地にぶつかる直前に足を前に出した、無論勢いがあった様で地面に10センチ程めり込んだ。
そして先ほどブラックが刺さっていたであろう穴が目の前の地面にぽっかり空いていた、まるで巨大モグラの巣のように。
「ブラック!!」
「がぼぼぼぼ。」
林の真ん中にあったのは泉だった、上からでは高い木に隠されて気が付かなかったがどうやら泉があったのだろう、しかもそこそこ大きい。
蛇龍は翼をまた広げた、翼の裏には攻撃用の近未来的な装備がつけられていた。
よくあるレーザー光線の装置に似ている。
「ブラック!!!バリアしとけ!!!」
こちらの声が聴こえているのかどうか知ることは出来ないが、聴こえていることを祈り翼の武器を構えた。
飛行機のジェットエンジンにも似た装置の中心に光の玉の様なものが見え始めた。
「…………。」
しっかりと鋭い目で泉を見据えて険しい顔をしている。
じわりと、強く噛み締めたせいか歯の付け根から鉄の味がした。
「………………いくぞっ!!!」
ピカッ!!!!!
と…………泉目掛けて、目が眩みそうなほど眩い光線が物凄い勢いで撃たれた。
周りで葉を落とし、風圧を受け折れそうなくらい傾く木々がそれを物語っている。
泉に光線が撃たれて2、3秒後、大地が割れる様な揺れと轟音がゴゴゴゴゴッと響き渡った…………。
「ハブくんんん!!!」
「ブラック!」
揺れる大地に根を張るように立ち尽くす蛇龍の前に、泉から飛び出した黒い龍が転がり込んで来た。
「マジやべー、これまじヤバイよ!!」
「揺れがか?全く軟弱な……。」
「ちががが!ヤバイんだって!」
「はぁ?」
「泉に!!!馬鹿でかいバケモンが居る!」
「……ファ……?」
こんな事をして居る間に揺れはどんどん大きくなり、泉の水がゴボゴボと激しく音を立て始めていた……。