閑話 彰彦兄さんの事、呑気に分析してる場合じゃ、ない。
「彰彦兄さん。ギャップ萌え! ギャップ萌えを狙いましょう! 時代は萌えですよ! 」
「ええ?! 何!? 」
やたら、らんらんと目を光らせて、変な押し売りみたいな口調で尊が言った。
さっき気が付いて、‥考えてた。彰彦兄さんのモテない理由。
きっちりし過ぎて、隙が無いのと、無個性過ぎてつまらないからだ。
そして、オレは今回発見した。
寝起きの彰彦兄さんは、可愛い。
目をしばしば、ごしごしする仕草なんて、ちょっとあざとい! ってくらい可愛い。
‥あれは、オレみたいに可愛いのがしたら、もう超あざとくなる奴なんだけど、彰彦兄さんみたいな普段大人~な男がしたら、「何、ちょっと可愛いんですけど」ってなる。女子のハート鷲掴み間違いなし。
普段でもあるよ? 彰彦兄さん萌えポイント。
例えば、浴衣に着替えるとき、襟をばしっとか合わせるときとか、座る時に裾をすっと撫ぜる仕草だとか。あれ、色っぽい。男の色気っていう奴だろう。‥でも、普段日常生活送るうえで浴衣着ることって、無いわけで‥。
しかも、色気を感じたら、恥ずかしくって目を逸らしちゃうわな、‥それはダメ。そういう路線は彰彦兄さんに向いてない。
目を逸らした女の子に、(目ざとく)
「何? 」
って聞くくらいじゃないと、ダメ。
つまり、「恥ずかしくて目を逸らされた」って気付かない様な彰彦兄さんにはそもそも無理なの。
いるよ? それでもガン見できる女の子。でも‥そういう、ミーハーなタイプは彰彦兄さんとの恋愛には向いてない。ファン止まりで、終わり。
だって、見かけはアレだけど、彰彦兄さんの日常って、驚くほど動きがないもの。
ぼーと本読んで、原稿書いて、オレに勉強教えて、冷ややっこ食べて‥。
それらが、全部「何やっても、絵になる~」で、その子の場合終わるよ? 多分。
彰彦兄さんを、「一人の人間」として認めることが、大前提。「こいつ、ホンマ面白ないわ~」ってディスってる位のスタンスで、普段気にかけてない位が丁度いい感じ。それで、‥「ある日突然」ドキッと。‥まあ、結局オレもだけど、はじめっからキャラがたっちゃってるタイプって、恋愛対象にされにくいんだ。
永遠の弟キャラ。
鑑賞対象。
本来だったら、自分で危機感もって、作戦を練らなきゃならないのに、その危機感すらないヤバさ‥。‥和彦さんはそうじゃなかったぞ。彰彦兄さんの今までの人生に‥何があったんだろ。
中学時代の闇が関係してるのか?
何事にも興味が持てなくなる呪いか?
‥昔こっぴどく振られたとかで、女性に対して一歩も二歩も引いているのか?
ううむ。先ずは、原因追及か‥。
どうやら、尊は襖の向こうでこんなことを考えていたらしい。
ふと、彰彦の若い版みたいな自分の顔を鏡で見る。
彰彦と似ているのだけど、全く違う。
‥そうか、オレがプロデュースすると、彰彦兄さんはオレになるな。
オレと、彰彦兄さんは全く別の個体だ。
やっぱり、所詮、彰彦兄さんという人間を知ってもらうしかないんだ‥。
でも、知ったら、きっと誰かは好きになる。
きっとそんな人はいる。
顔とかだけじゃなくって、彰彦兄さんと一緒に居たいっていう人がきっといる。
でもま。まず、彰彦兄さんと向き合うのに慣れてもらわない事には、仕方ないんだけどね。
結構、じっと見つめられると緊張するよ、あの顔は。
切れ長のすっとした涼し気な目元とか、ちょっと茶色すぎる瞳孔とか、長い睫毛とか、通った鼻筋とか、形のいい唇とか、結構‥緊張する。肌とかすべすべで触りたくなるけど、つい触っちゃって、近寄り過ぎたのに気付いてそのままのポーズでフリーズしたりして、いたたまれない。
髪の毛とかうっかり触っちゃったら、つい撫ぜ続けてしまうくらいの手触りだし‥。
‥見ない位が、多分丁度いい。
気にしない位の、鈍感な人じゃないと無理。
‥でも、そうしたら、彰彦兄さんの地味な行動は、その鈍感な人の目の端にもはいらないかも、で‥。
う‥。
もしかして、これって今後彰彦兄さん化する(予定)オレにも言えることじゃ‥。
オレの場合、優磨ちゃん特定に作戦を練ればいいわけだけど‥。
優磨ちゃん、オレを意識する。→緊張する→話しにくくなる→そのまま自然消滅
‥まずい‥。
遠くの超イケメンより、近くの二枚目半。
「オレ、そろそろ帰ろっかな‥」
ぽつり、と尊が呟くと、
「何、急に」
彰彦が、呆れたような口調で返す。
‥そろそろ、帰らないと、もう一生帰れないかも‥。
‥孝子さんに「誰こいつ」「年頃の娘を男となんて暮らさせられないわ」って思われても‥困るしなあ‥。あ、‥それって、もうヤバいかも。
だって、‥優磨ちゃん、オレの事意識しちゃってた。‥もう、一緒に住めない‥。
ほろり、と目頭が熱くなった。
‥もう、孝子さんのご飯食べれない。優磨ちゃんに、「あーん」ってしてもらえない‥。(そんなことやってたのか)
「なんだなんだ。どうしたの、‥泣いてるの? 」
目の前に立っている彰彦が何か焦っているが、‥正直どうでもいい。
ってか、泣いてなんか、ない。
「泣いてなんか、ないやい! オレ‥勉強する。優磨ちゃんと同じ大学行く‥っ! 」
目を腕でぐしって拭って、尊は何回目かの「頑張る」宣言をする。
‥今回は、‥本気だ!
「‥? うん‥」
‥彰彦よ、お前のその馬鹿面は見飽きた。
オレは、お前とは違うぞ!
三十を前にして、お化け屋敷の館長をしてる無駄なイケメンの二の舞にはならない!
「やる気になるのが、ちと遅すぎるのお‥」
くく、と笑っている天音ちゃん。
‥笑ってろ、お前はどうせ、永遠の女子高生だ。
トイレの花子コース爆進中だ。
せいぜい、オレを笑ってればいいさ。
そして、ある日気付くんだ。
「Life is but a walking shadow. 人生は歩く影法師に過ぎない」
ってね! (※天音は、もう既に気付いて、達観している)
人生は、先に気付いたものにのみ、微笑むのだよ!!




