4.私たちしか知らない彼女の事情
「お家はどこ? 」
尊に目を合わせて、優しく尋ねた孝子に、
「ないよ」
尊はケロッとした顔で言った。
「あえて言うなら、別になくっても構わないんだ。だけど、優磨ちゃんに会えたから、ついてきちゃったんだ。‥ごめんね」
「無くってもいい? 」
「だって、ボク幽霊だもん」
「は? 」
「え? 」
そう驚いた私たちの目の前、尊は机をすり抜けた。
「いや、ぶつかることも出来るよ? まだ下手だけど」
「‥‥‥!!! 」
そうして、我が家に幽霊が同居することになった。
練習熱心な幽霊が毎日、「机にぶつかる練習」「字を書く練習」を小学校にも行かずにしたものだから、私たちが小学校を卒業する時には、尊は、驚くことに殆ど普通の子供と変わらない感じになっていた。
「となると、女性ばかりの中で、男が住んでいるのも、世間体がわるい。ボクはこれから、女の子ってことにしておこう。どうせ、まあ。幽霊だ。なんてことはないんだけどね」
‥幽霊がそんなに明るいものだとは思わなかあった。
まあ、そんな幽霊の常識を覆した尊以上に優磨を驚かしたのが、
「じゃあ、中学校に行かないと」
という、母さんの一言だった。
「女の子の制服もう一枚買わなきゃ」
‥やっぱり、女の子なわけね‥。
「尊、お前女だったのか! しかも、優磨と一緒に住むの? 」
大島の驚きは、仕方がない。というか、普通だ。
尊はある日急に現れた幽霊で、‥だから、ある日突然消えたっておかしなことではない。
だのに
だけど
ふっと、また帰ってくる。そんな気がするんだ。