8.足りないもの。
二話投稿分の二個目。
手に入れていると気付くと、嬉しくなる半面、もっともっと欲しくなる。
足りないものに気が付くようになる。
そう。
別に足りないとかおもったこと、今までなかったんだ。
何も欲しいものなんてなかったし。
それに、身の回りには何でもあって、自分に何かが足りないなんて思わなかった。
でも、自分にたりないものがあるって気付いた。
足りないもの。欲しいものが出来た。
でも、それは家族の愛情でも、性欲とかそういうものではない。それだけは分かる。
安定が欲しい。そして、絶対的な安心が。
俺にとっての安心も安定も楠だ。
楠が欲しくてたまらないのは、魂の枯渇を埋めたいから‥。
それは、多分、暗闇で灯りを求めるのと同じ行為。
暗いのは、嫌だから。
寒いのよりも、嫌だから。
寒いなら、縮こまって座り込んでいればいい。でも、暗いと何もしようと思えなくなる。
もう駄目だって思う。
動けなくなる。
明るいのは、‥希望だ。
これがあるから、なんとかやっていけるって思える。
今自分にとってのそれが楠だから、‥自分は楠を求めて止まない。
天音っていう変な子供が
「バランス」
って言っていた。
多分、今が丁度いいバランスなんだろう。
だから、これ以上、俺が楠のことを求めて力をつけるといけないんだろう。‥だのに、何かを欲しがるエネルギーって、何よりも強い。
こんな気持ちに自分がなるなんて、今まで思いもしなかった。
「柊さんは、火だから」
楠が言った。
それはそうだろうって納得できた。
寂しくって、焦がれて、手に入れて、焼き尽くして
今まで沢山のものを失ってきた
だけど寂しくて
人を求めた。
聴くものを虜にする声と、笑顔。
それは、さながら魔性の様だ。
人を夢中にして、虜にする。
「あの声は、後天的なものなんだろう‥」
楠からそう言われた梛は、その意味を考えて、ゾクッとした。
自然にではなく、故意に。
柊は、故意にその力を身に着けた。
だけど、それは「欲望」ではない。ただ、精神の安定を得るために。
柊はひたすら、自分の精神の安定を望んでいる。
楠はそれを与えてくれる。無条件に。
求めなくても。
求めたら、楠はどんな顔をするだろう?
誘ったら、逃げてしまうだろう。
楠は柊のあの声が苦手なんだ。
楠の卦は坎だから、特別耳がいいのかもしれない。
天音から八卦の話を聞いて、梛は、将来これを形にしようと目下勉強中だった。で、坎の卦の身体部分は耳、その他、腎臓、性器、尻、肛門、子宮(中男で男だのに? そこらは、まだ勉強不足で分からない‥)だということもその時知った。
「‥だけど、今は楠がいるから、柊の兄ちゃんは‥安心だね」
誰彼構わず誘わなくたって‥。もう、寂しくない。きっと。
梛が楠に言った。
‥そうだと思うし、そうだったらいいと思う。
「そうだ‥ね。たぶん、僕らもそうだ」
って、楠も言う。
そして、寂しいのは柊だけではなかった。ここにいる、みんな寂しかった。
‥柳さんや桂さんは知らないんだけど。
柊は、黙って窓の外に映る研究室を見ていた。
研究室は、前に立つ本社ビルの陰になっているから、夜になって本社ビルの電気が消えると、真っ暗になる。
夜景とかとは‥無縁の景色になる。
ぼんやりと、楠がパソコンを操作している姿が闇に浮かぶみたいに映っている。
‥楠は「坎」水の卦だ。それも、特に強い。俺の火の卦をゆうに凌駕している位強い。
‥多分、楠は「ひと」ではない。
‥幽霊でも、「臣霊」(この前伊吹さんに聞いた)でも勿論ない。
‥もっと、特別なもの。
‥多分、神の。‥水の神だろう。名前は分からないが。
‥あの天音って子もきっと‥。
‥ひとじゃない。
‥あの二人は、いくら何でも強すぎる。
‥レアって一言では言い表せない位‥。
‥俺にとって楠は特別だから‥。
‥俺は、楠が「欲しい」
‥まったく、火の力の消された世界はどんな平然な世界なのだろうか。
‥それこそ、俺が望む世界だ。
その気持ちが強くなり、‥平然ではいられなくなる。
二分の二




