表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼がこの世に生まれた経緯について私が知っていることは何もない。だけど、今も彼は私の傍にいます。  作者: 大野 大樹
一章 「お化け屋敷」の住人は「お化け」ではない。
3/103

2.「お化け屋敷の住人テレビの取材に抗議する」の真相(前編)

 住宅街も眠りにつく深夜零時。

「なにか影が動いたっっ、あそこ! あそこ‥」

「うわーー!! 」

 闇を割くような少年の甲高い叫び声が辺りに響き渡り、それにその声に驚いた少女の悲鳴が被さる。そして、持っていた懐中電灯を放り投げんばかりの勢いで取り乱し、我先にと逃げていく様に人間の本性が現れる。本当に肝試しは恐ろしい。

 『閑静な住宅街の外れの昼なお暗い廃墟、まず、そこに集う烏たちの異常な数に圧倒される。

 広大な敷地を囲む、瓦葺の高い土塀は、所々崩れかけて、そこから細い雑草が生えている。その隙間から見える、草木の生えるがままになっている庭。

 漆喰の白と焼き杉の黒のコントラストも美しかったであろう壁も、最近では、漆喰がはげ所々木枠が見えている。

 屋根の上に鈍く光る黒い瓦の角も心なしか欠けて。昔の美しさをただ想像させるだけに、とどまっている。

 この前にたつと、底知れない恐怖と、そして哀愁が襲ってきて、気持ちが落ち着かなくなる。

 今、誰が呼び始めたか「お化け屋敷」は、夏には県外からも肝試しに若者が集まる有名スポットで、日頃は地元の人間も近寄らない。危険度大』(危険度は大が最高評価だそうですよ)

 というのが、どうやらもっぱらの噂らしい。

 実際、夏にはやたら不法侵入を受けるのが、ここ何年かの我が家の夏の恒例にはなっている。

 家も、おっしゃる通りの荒れ様。

 鶏の好む実のなる木が多く、近所の八幡神社に集まる鳥の餌場と化している。

 結果、このあたりの鳥という鳥が集まる鳥たちの楽園になったわけで、決して烏だけが集まっているわけではない。

 近所づきあいをさぼっていたら、この頃とうとう、回覧板のルートからも外された。

 

 近所の住民が敬遠しているのは事実だが、別に空き家だと思われているわけではない。

 現に、町内掃除などは、隣のご隠居がお知らせしに来てくれる。


「お化け屋敷」の住人 西遠寺 彰彦は、たった今知ったばかりの「我が家の衝撃の真実」に憤りを隠せなかった。


 インターネットと無縁に過ごすIT発展途上国の彰彦宅に、広島に住む従兄弟の男子高生が面白がって、インターネット上で見つけた「怪奇スポット特集」の中からこの記事を見つけ出し、わざわざプリントアウトしてFAXで送ってきたのだ。

 カッコ内の手書きは、その子が付け加えたものだ。

 ‥親切心に、悪意を感じる。

 まあ、勿論悪意なんかじゃなくって、面白がってるだけなんだけど。

 そう周りを意識すると、今日はいつもにまして騒がしい。

 いつもなら気にしないようにして寝てしまえるほど慣れたけど、今日は出て、ばしっと言ってやろう。

 そう決心して起き上がり、装いを正す。

 その決心は、寝るための装いである浴衣ではなかったことにも表れていた。

 夏用の麻の単衣の襟を合わせて、引き戸に手を掛ける。

 この戸は、見た目に反して軽い。

 音も立てず屋外に出て、

 ギィ‥。

 誤解の一端を担っているであろう、黒い金具のついたどこか禍々しい黒い木の門を押し開けると、門の前には見知らぬ女性と、何故かテレビカメラ。

「キャーーー」

 女性は、一瞬固まった後、これでもかというくらいの叫び声をあげて、その場にしゃがみこんだ。

 暗いライトを正面から当てられて、濃い影の出来た彰彦の顔といったら、それはもうこの世のものでは無いほどだったから‥。

 着物姿というのも、恐怖を助長した。(多分)

 状況の変化についていけず、彰彦はつい呆然と立ち尽くしてしまった。

「ちょ‥。なんですか? ‥」

 戸惑いながら出た声にまるで貫禄はなく、ばしっと、とは程遠いものだった。

「え? 人だよ。ひと。真紀さん、多分、生きてる人だって! え? なんで人がいるんだ? ちょっと、カメラ止めて! 」

 カメラを向けられていた女性、真紀が彰彦をまじまじと、――特に足に重点を置いて――見た。

 カメラを止めさせた男といい、失礼な話だ。

「ええと、‥あなたはここの住人なんでしょうか? 」

 彰彦の足を確認してようやく落ち着いた真紀が、立ち上がり、遠慮気味に彰彦に話しかけた。

「そうですけど‥」

 日頃、若い女性と話す機会の少ない彰彦は、緊張してどきまきした。

「ちょっと――! 困るよ! 今更、デマだったじゃ番組にならないよ! あの町長さん、話が違うじゃないか! 」

 誰に言うでもなく、腹だたし気に男が叫んだ。

「町長ぉ? 」

 訝し気に彰彦が反復する。

「そうだよ! ここの町長が「有名な怪奇スポットがある」って売り込んできたから、僕らは来たんだよ!? ここはもともと肝試しスポットとしても有名だったからさ! 町長が言うなら、って」

「裏が取れたと思うじゃない? 」

 男は興奮冷めやらず、といった様子か更に叫んだ。

「へえ‥」

 その男のあまりの剣幕に、彰彦の怒りのテンションは一気に下がった。

 ただ、黙って奥歯を噛みしめる。

 町長め! なんのつもりだ!? 

 彰彦は怒りに、静かに握りこぶしを震わせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ