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彼がこの世に生まれた経緯について私が知っていることは何もない。だけど、今も彼は私の傍にいます。  作者: 大野 大樹
一章 「お化け屋敷」の住人は「お化け」ではない。
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1.お化け屋敷の噂

 9月になって、その屋敷にケーブルテレビが撮影に来たということを聞いたのは、クラスのお調子者の斎藤からだった。

「お化け屋敷の住民が抗議したらしくって、番組にはならなかったらしいけどね。がっかりだよなあ、俺、たまたまそこに居合わせててさ、テレビカメラに写ってたかもしれないのにさあ」

 大袈裟にため息をつきながら、誰かに聞かせるように斎藤がわざと大きな声を出した。

「住んでいる人みたの? 」

 斎藤の机に駆け寄り、三沢が身を乗り出した。

「え? いや‥まあね。チラッとだけだけど。暗かったし、声の感じでは、若い男だったよ。二十代か、いってても三十歳台くらいかな。背が高くて、痩せてた。あと、‥そういえばもう一人年輩っぽい男もいたな」

 かわいいと評判の三沢の注目を浴びたことで、気を良くした斎藤がますます調子に乗ってしゃべりだした。

 気が付けば、斎藤の周りには小さな人だかりができていた。皆お化け屋敷の住人には興味があるんだ。周りに集まらなくても、耳だけはそちらをむいている。

 かくいう大島もそうだった。

 そんななか、大島の後ろの優磨だけは、まるでその騒ぎが聞こえていないように、無表情で窓の外を眺めていた。

 そんな顔を大島はこの頃よく見る。


 大和 尊が「いなくなって」からだった。


 尊は表向きは、「急に転校した」ということになっている。しかし、大島が尊の転校先の住所をきいても、はぐらかしたりして何だか様子があからさまにおかしい。知っていて隠しているというより、分からないことを隠している、そんな感じ。

 多分、優磨も知らないのだろう。

 一番仲が良くって同居していた優磨もその行き先を知らない。

 家出、失踪、‥誘拐。いやおうなしに浮かぶ不吉な単語。そして大島には特にそんなことを考えてしまうだけの理由があった。

 尊が学校に来なくなった日の前日、尊に最後に会ったのが、お化け屋敷の前だったから。否、尊がお化け屋敷に入って行ったのを見たわけではない。八幡神社に向かっていたのかもしれない。尊は、あの神社が好きなのか、よくあの辺りで見ることがあったから。

 ‥信心深い‥?

 いや、それはなにか違う気がする。

 そういえば、受験前、クラスメイト全員で一緒に学校から八幡神社に参拝したことがあった。クラスメートたちの一番端に立って、尊はびっくりするほど表情のない顔を境内に向けていた。手を合わせてはいた、しかしそれは、ただの形だけに見えた。

 あれは、参拝していたとは、決して言えた態度じゃなかった。

 どっちかというと、何かを恐れていた。

 何かに必死に耐えていた。


 ‥何を? ‥何に耐えていた?


 八幡神社には、何か尊の恐れるものがあるのだろうか?

 優磨は尊の顔を見ていなかったから、気付いていなかったと思う。そして、僕もそんなことをあの時特に言わなかった。

 強気で明るい尊は、そんなことばらされたらきっと嫌だろうと思ったから。

 だから、そのことを確認する機会はなかった。

 ‥確認しておけば良かったんだろうか? 確認したところで、尊は正直に答えただろうか?

 もし、‥非現実的な話なんだけど、尊に「霊感」なるものがあって、そして、あの神社に何かその尊の恐れるものがある。そして、その怪奇スポットの隣に立っているのは、あのお化け屋敷だ。

 ――お化け屋敷にまつわる、有名な噂――

 何年か前、高校生が失踪する事件があった。その時、何故か警察の張り込みが行われたのが、あの屋敷だった。

 結局、高校生は無事に帰ってきて、そのことは有耶無耶になり、でも噂だけが残った。

 失踪していた何日間かの足取りがつかめない。

 彼は神隠しに会っていたのではないか。そんな噂が立つと同時に、もう一つの噂。

 彼が、いたのはあの家ではないか。

 あの家は、現在の神隠しの屋敷ではないのか。

 そんな噂が立ったのは、勿論、警察の張り込みがあったからだ。

 噂だけど、噂だけでないかもしれない。

 なんにせよ胡散臭い屋敷なんだ。

 ‥ただの考えすぎだったらいいんだけど。

 大島はいらいらした様子で、視線を窓の外に移した。

 ちょうど、優磨と同じように。

 窓の外、八幡神社の大クスノキが見えた。

 まるで目印のように

 尊、どこかで迷っているの? 帰っておいで、大クスノキが見えるでしょう?

 優磨は今日も心の中でそう尊に話しかけた。

 だけど、それにこたえるものは、勿論いない。


 ‥黙っていなくなられる程、俺だって親しくなかったわけじゃないと思うんだけどな。

 大島はそう思って、また不機嫌になってきた。


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