2.表と裏
今日は3つ投稿です。
彰彦さん編は、取り敢えずちょっと終了で、次回からは尊ちゃんの話に戻ります。
ちょっと、きりがいいところまで投稿してみました。
「裏、だな。どうも、『Souls gate』と関係があるとされている西遠寺は」
電話越し、夏が歯切れの悪い口調で言った。
「裏西遠寺? 」。
「うん」
「そういうのがあることは知っているけど、‥俺は、あんまり知らないんだ」
「俺もだよ。裏と表は全く違うものだけど、他の人には分からないわな」
もとから西遠寺の人間を表、というのに対して、能力を買われて外からスカウトされてきた人間の事を言うらしい。親戚じゃないし、表と裏はほぼ独立しているから、裏の事なんて言われても、西遠寺の人間にはわからないのが実情だ。
夏にもよくは分からないようだ。
今回調べて新たに分かったという状況なのだろう。
電話口から聞こえるのは、いつもの快活な口調ではない。
「まあ、他の人たちにはね‥。情報公開する気も、西遠寺にはないだろうし」
彰彦がため息交じりに呟くと、電話の向こうの夏が頷いたであろうことが雰囲気で分かった。
「迷惑を被っているのは、何も知らされていない末端ばかり、って感じだね」
「父さんは何か知っているのかな」
ふと、彰彦は呟いていた。
ただの思い付きだ。
「ご当主様? 知ってらしても、何もおっしゃらないでしょう」
彰彦の父親だが、実は西遠寺(表)の当主だ。夏は、敬語を使った。
「‥そうだねえ」
「まあ、それはそうと。わかったことからいうね。まず、『Souls gate』についてなんだけど、制作したのは、ゲームクリエイト会社『TAKAMAGAHARA』という会社らしいね。大人気、といっても出始めたばかり、しかもまだ試作段階のゲームらしい。でも、これが一部のマニアに、絶叫的な人気だと」
「高天原」
彰彦が呆れた様な口調で反芻する。
「ね、笑っちゃうでしょ」
夏は笑っている。
と
「あのゲームの名前‥」
彰彦が、切り出したのを
「うん。僕もそれは、初めて聞いた時から思った。あれは‥身内が関わっているッぽいよね。俗にいう、表、の」
夏が食い気味に引き継ぐ。
どうやら、みんな思うことは同じらしい。
まあ、そりゃあそうだろう。
「ん‥。‥現物を見てみたいな」
西遠寺(表)がそのゲームの制作にかかわっているかという判断は、そうしないとつかないと思った。
彰彦にしては珍しく積極的な意見だ。
頼まれたら嫌だとは言わないし、きっちりこなすが、自分から発言することは、実はあまりない。
今日だって、しかしながら、結果「そうすべきであろう」という発言をしただけで、特に自分で考えて発言したわけではない。
「今度、一緒に行ってみない? 住所とかもすぐに調べられると思うし」
反対に、いつでも積極的な夏が即座に答えた。
「それはお願いする。でも、きゅうに行けるものかな」
あくまで現実的なのは彰彦だ。
「何とかしてみる! 」
夏が、任せて! というような強い自信をこめた口調で言って電話を切った。
予想がつかない展開に、彰彦は電話を置いても暫くはその場で立ち尽くしていた。
本当に、まるで「お化け」だ。
そこにいるのは分かっているのに、捕まえようと思っても、捕まえられない。
なんで、そこにいるのかもわからないけど、そこにいる理由は、確かにある。
気持ち悪いところもそっくり。
この噂は、本当に「お化け」にそっくりだ。