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第7話 血の代償

 一度意識してしまうともう全てがわからなかった。


 歩き方がわからない。

 体の動かし方がわからない。

 この体は一体なんだ。

 俺に何が起こってる。


 頭がパニックに陥る。

 思考がまとまらない。

 考えれば考えるほどこの体が自分のものではないように感じてしまう。


 落ち着け。落ち着け。

 原因はわからないが恐らく魔血(トランサー)が切れたせいだ。

 大丈夫。なんとかなる。大丈夫。


 ここはまだ危険区域だ。一刻も早く抜け出さなければならない。出口はもう見えている。

 歩く必要はない。腕だけでも動けばなんとか前へ進める。

 腕ってなんだ?

 腕はこれだ。俺の体から生えている二本のもの。

 体?このよくわからないものが俺の体?


 ダメだ。いやダメじゃない。諦めるな。

 俺はこんなところで死ねない。

 もうなんでも良いから前へ進め。なんでも良いから。


 一心不乱に体を動かす。どこを動かしているかはもうわからないが、視界が揺れているからなんとか動いているのだろう。


 芋虫のように蠢いていると、後方で朽木の折れる音がした。

 まさか。そんな。出口は直ぐそこなのに。嫌だ。


 振り向くことはできなかった。振り向き方がわからないから。

 後方から迫っているだろう脅威に焦り、より一層体を動かす。視界が進んだ。前へ進んでいる。進んでいる!


 ただひたすらに体を闇雲に動かした。徐々に前へ進んでいる。出口へ近づいている。逃げ切ってみせる……!


 しかしタイムアップのようだ。


 鼻息を体で感じるほどの距離にまで近づかれてしまった。視界が涙で滲む。ふざけやがって。こんなところで。こんなところで……!


 体を動かしていると偶然にも後方を向いた。振り向くつもりはなかったが、無茶苦茶に動かしていたら向いてしまった。


 そこにいたのは3mはあろうかという漆黒の毛皮を身に纏った鼠の魔物。体の至る所に古傷が浮かび、鋭く伸びた前歯は削れてガタガタだ。前足に生えた爪はたやすく俺を両断することができるであろう鋭さを誇っている。

 俺が戦った奴とは比べ物にならないプレッシャーを感じる。

 目と目とがあった。ああ、俺はここで死ぬ。悟ってしまった。


 鼠が大きく口を開けた。


 恐怖に目を瞑る。


 瞬間、頭に何かが触れる感触がした。


「合格だ、オルフェ。よく頑張ったな」


 目を開けば、魔物がちょうど白銀の八つ足に貫かれているところだった。


 3mはある巨体が八つ足に貫かれて浮いている。

 魔物は宙に浮いた足を破茶滅茶に動かし逃れようとするが、深く突き刺さった八つ足は抜ける気配がない。


 そして八つ足が弾けるように広がった。


 当然、八つ足に貫かれていた魔物は、無残にも細切れに引き裂かれてしまった。


 辺りに血と臓物と肉の雨が降り注ぐ。


「よう、オルフェ。生きてるか?」


 白銀の鎧を血で赤黒く染めながらこちらを振り返り、アラクネが尋ねた。


 ああ、俺は生き残ったんだ。


 緊張の糸が切れて、俺の意識はプツリと途絶えた。

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