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第6話 必殺前歯

 もちろん頭が良いのは人間である俺ことオルフェだ。流石に鼠に知恵比べで負けるほど馬鹿ではない。


 そしてこの場には幸いなことに使えそうな仕掛けが既にある。後は魔物を上手く仕掛けに嵌るだけだ。


 ここから仕掛けまではまだ少し距離がある。

 まずはこの距離を埋めなければならない。


 俺はジリジリとその場を動き仕掛けとの位置を調節する。魔物も俺の狙い通りジリジリと動き始めた。


 あと1m……、50cm……、ここだ!


 魔物に勢い良く飛びかかる。


 しかし、魔物は俺の攻撃を難なく躱した。


 必死の攻撃は躱され、着地の際に地面の落ち葉に足を取られる。

 体勢が崩れ、俺は無様に地面に叩きつけられた。

 この隙を逃すまいと今度は魔物が俺に飛びかかる。

 勝ったと言わんばかりに魔物が叫び声を上げて、こちらに勢い良く噛みつきに来た。

 俺をたやすく両断するであろう魔物の鋭い前歯が目の前に迫る。


 だが残念、全てはブラフだ。


 地面に横たわる俺だが、足はしっかりと地面を踏みしめていた。

 足に全力で力を込めて、横っ飛びでその場から回避。

 魔物は俺が居た場所を通り過ぎ、その先へ突っ込んだ。


 そう、アラクネが残していった蜘蛛の糸の塊へ。


 勢い良く飛び込んで来た魔物は止まることが出来ず、蜘蛛の糸に絡めとられた。

 なんとか身動きを取ろうとするが、動けば動くほど蜘蛛の糸は魔物に絡みついていく。

 そしてついに手足を蜘蛛の糸に縛られ、身動きの取れなくなった魔物へと近づく。


 体内の魔力量はもう限界である。

 なんとかして魔力を補給しなければならない。

 今ならばアラクネが言っていたことがわかる。

 どうやって足りない魔力を摂取するのかを。


 俺は前歯を魔物へと突き立てた。


 アラクネの言う通り鼠の前歯は随分と硬いようだ。強固な毛皮を物ともせず、俺の前歯は魔物の皮膚を貫いた。

 溢れ出る魔物の血液、すなわち魔血(トランサー)をひたすらに飲み込む。魔力が体内に取り込まれるのがわかる。不足していた魔力が体に浸透していく。


 始めはなんとか抵抗しようとその身をよじっていた魔物だが、徐々に抵抗が弱くなり、ついにピクリとも動かなくなった。


 魔物が動かなくなっても俺は一心不乱に魔血を飲み続けた。

 筒から体内に直接魔血を摂取した際とは異なり、魔血を口から飲み込むのでは魔力の摂取量が少ないようだ。飲めるだけ飲んだが体内に浸透する魔力量は筒で摂取した際と大差がない。これ以上飲んでも魔力量に変化がなくなって来たので空っぽになった筒に魔血を貯めた。


 さて、これでなんとか20分は魔物でいられるだけの魔血は手に入れた。

 身体能力の上がっている今ならば、20分もあれば管理区域まで出ることが出来そうだ。


 そうと決まれば話は早い。

 こんな物騒なところはさっさと逃げ出すに限る。

 最後に戦利品として鼠の鋭い爪を数本根元から噛みちぎり頂いていく。


 爪を懐にしまい、俺はその場から駆け出した。


 聴覚と嗅覚をフルに活用して索敵を行いながら森を駆ける。

 少しでも魔物の気配を感じれば、直ぐに迂回して遭遇しないようにしながら危険区域を進んでいく。


 途中で新たに貯めた魔血を摂取しながら、走り続けること15分ほど。

 新たに魔物に出会うこともなく、遂に危険区域の終わりである目印が視界に入って来た。

 やっとこの人外魔境から抜け出すことができる……。


 最後の一踏ん張りと足に力を込めた瞬間、ふと視界がぐらついた。

 体勢を立て直すことが出来ず、そのまま地面に滑り込んだ。


 何が起きたのか理解できなかった。

 あれだけ体に馴染んでいた四足歩行が急に遠いものに感じた。

 煩わしく感じるほど聞こえていた様々な音も聞こえない。

 濃い緑と生き物の匂いも感じられない。


 そうか、魔力が切れたのだ。


 体感ではもう少し持つだろうと思ったが、ここに来て魔力がなくなったようだ。

 だが管理区域は目の前だ。この距離ならば普通に歩いていけば良い。


 倒れた体を起こそうとするが、思ったように体に力が入らない。再び地面に叩きつけられてしまった。


 あれ、俺は今までどうやって二つの足で歩いていたんだっけ……?


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