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第4話 帰るまでが遠足

「それに入ってるのは鼠型の魔物の魔血(トランサー)だ。身体能力の向上はもちろん、驚異的な嗅覚や聴覚が手に入る。お前がこれからこの危険区域を生き残るにはぴったりの能力だろう」


 俺がこの危険区域を生き残る??


 さっきからアラクネは一体何を言っているんだ。理解が追いつかない。


「まだまだ開拓者(ストレンジャー)として教えなければならないことはたくさんあるが、習うより慣れろ。まずは実戦だ」


 ぐっと笑顔で親指を立てるな。タイミングを合わせて八つ足でポーズを取るな。


「いやいやいやいや、ここ危険区域だし俺はただの子供! 俺に死ねってのか!」


「魔血があれば開拓者さ。さっき言ったろう?」


「それとこれとは話が違うだろうよ!!」


 おかしいおかしいと思ってはいたが、やはりアラクネは頭のネジが数本飛んでいるらしい。


「まぁお前がなんと言おうとここから帰らないといけないのは事実だし、俺はお前を置いていく。これは決定事項だ」


 冷や汗が頬を伝う。

 そう、何がまずいかと言うと俺は既に危険区域にいるのだ。ほいほいとアラクネに着いてきた時点で俺はもうこいつの術中だったと言うわけだ。

 大人は汚い。


「少しは頭が回るお前のことだ。もうどうしようもないのはわかるだろ?ほら、これがここから箱庭(ガーデン)までの地図だ」


 そう言ってアラクネは俺に地図を手渡した。

 手汗で地図が少し滲んだ。

 地図には方位と大まかな地形、簡単な目印が書いてあるのみ。この手書きの赤い丸が恐らく俺たちのいる場所だろう。


「さて先輩の開拓者としてのアドバイスだ。危険区域にいるときは常に魔血を摂取していろ。魔物の力がお前から失われたその時は死んだものと思え」


 再び真剣な表情でアラクネが告げる。

 アラクネは真剣な時とそうでないの時のギャップが激しすぎて反応に困る。

 ずっと真剣な表情してれば格好いいのに。


「なんか失礼なこと考えてんなクソガキ。余裕あんじゃねえか。ちなみにお前にあげたその魔血は全て摂取してもせいぜい10分も持たない。足りない分をどうするかは自分で考えろ」


 10分も持たないんじゃ全然足りないじゃないか!

 管理区域を1時間、危険区域を2時間歩いて来たから、危険区域を全力で走り抜けたとしても30分は掛かる。

 残りの20分のための魔血は一体どうすればいいんだ!?


「さぁ、考え込むのも良いがそろそろ俺は行くぞ」


 待て!待て待て!!

 心の準備どころか俺はなんの準備もできてないぞ!!


「そういえば名前を聞いてなかったな、小僧。お前の名はなんだ?」


「オルフェ! 俺の名前はオルフェだ!! とりあえずもう少し時間をくれ!!」


「オルフェか、良い名前だ。そして、残念ながらタイムオーバーだ」


 そう言ってアラクネは歩き始めた。


「おい! 待ってくれ! 俺を置いていかないでくれ!!」


 縋りつこうとするも八つ足に防がれ触れることすらできない。


「最後に一つだけ。鼠の前歯はとても硬いぞ」


 こちらを振り返り前歯を突き出して笑いながらアラクネは言った。


「生きて帰れたらまた会おう、オルフェ!」


 そして前を向くとそのまま飛ぶように走り去ってしまった。


 ポツンと一人取り残されると、自分が危険区域にいることを実感して体が震える。

 ここは人外魔境の外界(アンビエント)。人間はこの空間では一番弱い生き物だ。

 人間が魔物に対抗する唯一の手段、それがこの魔血。

 しかしこの魔血には限りがあり、危険区域を超えるには量が足りない。

 残りの分は自分でなんとかしろとアラクネは言うが、どうしろと言うんだ。

 アラクネが最後に言い残した、鼠の前歯はとても硬いという言葉の意図もわからない。

 一体アラクネは何がしたいんだ。俺を殺したいだけなら他にも方法があったろう。


 恐怖で震える体を抱き締めながら、訳のわからないこの状況を打開する方法を考えていると、がさりと前方の草葉が揺れる音がした。

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