第32話 初仕事
蟷螂の縄張りから帰還して、二日が経った。
昨日から早速一人で働こうと思ったが、まだ繋げた右足に違和感があったので、結局丸一日を療養に使ってしまった。
昨日はアラクネもミストさんも一日中仕事で、休憩中のリリカさん以外は誰とも会話していない。寂しさが尋常じゃなかったので、早急に新しい知り合いを作らなければいけないと固く決意した。
そして今日、初仕事を受けるために俺は受付の前に立っていた。知り合い作りはまた今度でいいだろう。先ずは仕事だ。
「いらっしゃいオルフェくん! もう怪我は大丈夫そう?」
今日も受付に立っているリリカさんが話しかけてくる。
「もうほとんど治りましたよ。今日から俺も一人前の開拓者なので、よろしくお願いします!」
「一人で開拓者組合を訪ねて来てからまだ二週間位しか経ってないのに、もう仕事を受けるなんて本当に信じられないわ……。それだけアラクネさんの特訓が厳しかった証拠かしら」
「もう何回死にかけたか覚えてないですね……」
本当に過酷な二週間だった。無事にここに立っているのが自分でも信じられない。手足を何回か飛ばされたのを無事というのかわからないが。
「さて、じゃあ改めてオルフェくん。開拓者組合へようこそ。本日の御用は何でしょうか?」
表情を改めて受付嬢としてリリカさんが尋ねた。
もちろん、俺の答えは決まっている。
「今日は、仕事を受けに来ました!」
「……ふふっ」
何だか照れ臭くて二人で笑い合ってしまった。
茶番を挟んだ後、リリカさんと仕事の話を始める。
開拓者の仕事は大きく分けて二つだ。
一つ目はもちろん魔物の討伐。討伐対象の魔物の数と大きさが開拓者組合の掲示板に張り出されているので、開拓者はそれを見て討伐する魔物を決める。
もちろん自分で好きに魔物を討伐しても良いのだが、掲示板に載っていない魔物を討伐しても大した金にならないので、基本は掲示板に載っている魔物の討伐がメインになる。
二つ目は危険区域の測量だ。測量は縄張りごとに行われる。縄張りの大きさや高低差、土質や環境など調べるものは多様である。
後々、人が住む管理区域として開拓しなければならないので、測量もまた討伐と同じように重要な仕事なのだ。
ちなみに今まで危険区域で討伐してきた魔物はほとんどが掲示板に載っていた魔物らしく、結構なお金が手元に入っていた。少なくとも一月は暮らしていけるくらいだ。
お金は今までアラクネが管理していてくれたようだ。何から何まで世話になってしまい、何だか申し訳ない。これからはしっかりと独り立ちして生きていきたいと強く思う。
仕事の話に戻ろう。
今回、俺が行うのは測量だ。
昨日丸一日を療養に使ったとはいえ、もし右足に何らかの不調が残っていると魔物との戦闘の際に命取りになりかねない。よって、一人での初仕事は測量にすることにした。開拓者は臆病なくらいが丁度良いのだ。
リリカさんに測量の依頼について尋ねると、現在受け付けているのは三件だという。
蛙、鷹、鹿の縄張りの三件だ。
鹿の縄張りはこの二週間でアラクネに連れられて行ったことがあるが、蛙と鷹はまだ行ったことがない。
行くなら初見よりも二度目の方がある程度慣れていて危険も少ないので、鹿の縄張りに行くことにする。繰り返しだが、開拓者は臆病なくらいが丁度良い。俺が臆病なわけではない。断じて。
リリカさんに行き先を伝えると、箱庭から危険区域までの簡易的な地図を渡される。箱庭と各縄張りの位置関係が大雑把に示されたものだ。
また、今回が初の仕事なので測量について簡単に指南を受けた。更に指南だけでは不安だろうと測量のマニュアルまで渡してくれた。
「さて、測量についてはこれくらいです。現地で何かわからないことがあればマニュアルをご覧ください。それでは、気をつけて行ってらっしゃい!」
「わざわざマニュアルまでありがとうございます! 行ってきます!」
こんなに丁寧に説明を受けて見送られるのは初めてではないだろうか。なんだかそれだけで感動してしまう。やはりアラクネは説明が足りなすぎるのだ。本当に。
目頭を押さえながら開拓者組合の扉を開けた。
こうして、俺は記念すべき初仕事へ向かうのだった。




