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第31話 一人前の開拓者

「相変わらず人間離れした戦い方ね、アラクネ。まさか無傷で倒すとは思わなかったわ。また強くなったんじゃない?」


「デキる男は停滞なんてしないのさ!」


 未だに状況についていけずに呆けているいる俺を置いて二人が話し始めた。


「あんたはそのすぐ調子に乗る癖がなかったらほとんど完璧なのにね。本当に残念だわ……」


「なぁなぁ、それ褒めてんの? (けな)してんの?」


「自分で考えなさい」


 俺を置いてけぼりにしたまま二人はいつも掛け合いを始めた。

 良い加減放置されるのが悲しくなって来たので口を開くことにする。


「ねぇアラクネ、そんなに強かったらここの母体(マザー)だって倒せるんじゃないの?」


「ん? いや、流石に単独で討伐するのは無理だなぁ。……まぁ集団でも微妙だがな。俺のスタイルが集団戦に致命的に向いてない。だから、結論としてはちと厳しい」


 いつもの掛け合いを辞めてアラクネがこちらに振り向いて言った。


「なんで? 今の魔物だってほとんど母体クラスだったんじゃないの?」


「大きさだけならな。母体は攻撃力が今の魔物の比じゃない。母体だったら最初の一撃を弾くことが出来なくて死んでると思うぜ」


「母体ってそんなに強いの……?」


「なんたって縄張りのボスだからな。母体は本当に規格外だ。そう、俺様のようにな!」


「ミストさんが言ってたのはそういう所だと思うよ……」


 ただアラクネが言ってることも間違っていない。本当にアラクネは規格外だ。

 晴れて一人前の開拓者(ストレンジャー)として認められた訳だが、今の戦いの全貌を把握することさえ叶わなかった。

 何をどうすればあんな高みに至ることができるというのか。


「あ、そういえば最初に魔血(トランサー)を四本も打ち込んでたけど、なんで? 一本で十分じゃないの?」


「もうオルフェくんも一人前の開拓者だし、教えておくわね。今まで、魔血をどれだけ摂取しても体内の魔力量が増えなかったことってないかしら?」


「確か、一番最初に危険区域に連れて行かれた時に……」


 そう、初めて魔物を倒した時だったか。魔力を補うために魔血を大量に飲んだが、結局10分持つか微妙なほどの魔力しか得られなかった。


「あれはね、魔力の許容量が少ないために起こる現象なの。つまり、オルフェくんはまだ10分ほどの許容量しかないってことになるわね。この許容量が増えれば増えるほど扱える魔物の力も大きいものになっていくのよ。前に話した魔血の慣れによる効果はこれのことね」


「そうだったんだ! 強くなるには許容量を増やすのが手っ取り早いってことね。じゃあ魔血の許容量を増やすにはどうすれば良いの?」


「それはもうひたすらに魔物と戦い続けるしかないわね。こればっかりは量がモノを言うわ」


 また脳筋みたいな結論だ。開拓者(ストレンジャー)の性質上仕方ない事かもしれない。

 だが新たにわかった事もある。今の今までの危険区域巡りは、最低限の力を身に付けるためだったって訳だ。


「ちょっと気になったんだけど、アラクネの筒四本分の許容量ってどれくらい凄いの? あれだけ言う位なんだからだから相当なんでしょ?」


「そうね……、控え目に言って化け物だわ。現役の開拓者(ストレンジャー)で四本分の許容量があるのはアラクネと騎士団の団長くらいじゃないかしら。団長は殆ど外界(アンビエント)には出てこないから、対魔物であれば人類最強と言っても過言じゃないわ」


「人類最強!? アラクネってそんな凄い人だったの!?」


「お前あれだけ言ったのにまだ信じてなかったのかよ!」


「凄いとは思ってたけどここまでとは……」


「ならこれで理解したろ? どれだけ俺様が凄いかを!」


 そう言うアラクネの表情は今までで一番自慢げだった。


 こんなのが人類最強なのか……。なんだかちょっとショックだ。

 ただ、アラクネが人類最強なら今の戦闘も納得だ。駆け出し開拓者の俺が理解できなくても仕方ない。それ程の差があるってことだ。

 せめてまともに戦況がわかるくらいには成長したいな。


「本当にあんたはすぐ調子に乗るんだから……。最後にトラブルはあったけれど、試験は終わったんだから、そろそろ帰りましょう。オルフェくん、よく頑張ったわね」


「そうするか。また魔物が現れても面倒だしな」


 そう言ってアラクネとミストさんは撤収の準備を始めた。


「それにしてもよくやったな、オルフェ。これでお前は一人前の開拓者だ。これからはお前一人で外界で戦うことになる。覚悟は出来てるか?」


「開拓者になると決めた日から覚悟は出来てるよ。……今まで本当に、ありがとうございます」


「お前が素直に礼を言うなんて、今日は雨かな?」


 アラクネはケラケラと笑いながら言う。


 本当にアラクネはブレない男だ。


 アラクネにからかわれながら、蟷螂の魔物から鎌を回収する。この鎌は強力だ。どんな武器にしようか今から楽しみで仕方ない。


 三人でワイワイと騒ぎながら危険区域を後にした。


 最後に一悶着があったものの、こうして俺は一人前の開拓者として認められたのだった。


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