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第29話 蜘蛛と蟷螂

 現れたのは真っ黒な表皮に包まれた巨体と怪しく輝く赤い瞳が印象的な魔物だった。黒々とした巨体から放たれる威圧感は並の人間に耐えられるものではない。

 魔物はアラクネとミストさんを追ってきたのだろう。二人が立ち止まっているのを見ると、魔物もゆっくりと足を止めた。


「アラクネ……この化け物は一体、何なの……?」


「眠ってたところを他の魔物が叩き起こしたらしくてな、こいつが暴れまわってるところにちょうど出くわして今に至るって訳だ」


「それくらい索敵で躱せなかったの?」


「他のそこそこ強い魔物と戦闘中で気づかなかったんだよ。……俺らが悪かったからそんな嫌そうな顔しないでくれ」


 露骨に表情を歪めていたらアラクネに謝られた。あのアラクネが謝るほどだ、相当酷い顔をしていたのだろう。


「それで、どうするの? 俺もうこんな化け物から逃げられる体力ないんだけど……」


「なんで逃げる必要があるんだ?」


「え? だって今アラクネ達は逃げてきたじゃないか」


「お前がもう動けそうにない今、他の魔物に襲われたらひとたまりもないと思って全力で走ってきたんだよ。そしたらこいつもついて来たってだけだ」


 後ろの魔物を指差しながらアラクネが言う。

 魔物はこちらを見つめたまま動かない。

 何かを警戒しているように見える。


「私はできれば戦いたくないけどね……」


 今の今まで荒れた呼吸を整えていたミストさんがようやく口を開いた。


「ていうかアラクネ! オルフェくんが心配なのはわかるけど、移動するのに糸を使って木々を飛び回るのはやめてくれないかしら? 地上を走る私の身にもなって頂戴!」


 だからあんなにミストさんは息も絶え絶えな様子だったのか。

 ていうかアラクネがそんなに俺を……?


「そんな怒んなって。それにオルフェも意外そうな顔すんなよ。これでも俺はお前のことを随分と買ってるんだぜ?」


「……ありがとう」


 素直に褒められることに慣れていないので無愛想な対応になってしまった。


「この恥ずかしがり屋め」


 頭をぐりぐりと撫で回された。

 髪がめちゃくちゃになったが、不思議と悪い気分ではなかった。


「さて、お前と無事に合流できた事だし、そろそろこいつの相手をしてやるか。もう待ちきれないみたいだしな。ミスト、オルフェを頼んだぞ」


 アラクネがそう言って振り返ると、魔物は鎌を振り上げて威嚇を始めた。

 10mを超えるサイズの魔物が威嚇をするだなんて、相変わらずアラクネはとんでもない。


「ねえアラクネ、本当に戦うの? 10m超えなんてもうほぼ母体(マザー)クラスじゃない。このまま逃げましょうよ」


 やはり10m超えの魔物というのはデタラメに強いらしい。母体クラスだなんて、ほぼこの縄張りのトップじゃないか。


「おいおい、お前らはこの俺様をなんだと思ってるんだ? 母体を一人で討伐したこのアラクネ様が、たかだか10mちょっとの母体にも満たないこいつに負ける訳ないだろうが!」


 そう言ってアラクネは腕に着いている筒を四本押し込み、魔血(トランサー)を体内に注入した。


「さぁ八つ足のアラクネ様の本気の戦いだ。滅多に見れるものじゃないぞ、オルフェ。一瞬足りとも見流すなよ!」


 折りたたまれていたアラクネの代名詞たる八つ足が稼働を始める。八つ足は徐々に開き、そしてその全ての足が魔物へと向けられた。


 八つ足を向けられた魔物は威嚇を止めて、こちらへと走り出す。

 それに合わせて、アラクネも駆け出した。


 こうして俺の生涯の記憶に残る、人外同士の戦いの幕が開いたのだった。


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