第24話 賭け金は命
23話で書き忘れたことがあったので加筆修正しました。10匹倒せば試験終了という重要な情報でしたのでここにも記しておきます。
危険区域に二週間通い続けて、一つわかった事がある。魔物は大きければ大きいほど強い。大きさがそのまま強さの指標になると言っても良い。
俺が戦えるのは相性にもよるが、2mがギリギリだ。これを超えてくると手も足も出ない。
後ろから俺を追ってきている蟷螂の魔物は、どう見ても4mはある。勝てる見込みはゼロだ。追いつかれたが最後、あの恐ろしい鎌に両断されるだろう。
俺がこの化け物と出会ったのは、縄張りに入って20分ほどした頃だった。
縄張りに入ってからすぐに、1mほどの魔物を順調に三匹連続で討伐した俺は、索敵に引っかかった次の魔物へ近づいていた。
蟷螂の索敵能力はそこまで高くないようで、向こうはこちらに気づいていないようだった。
俺の視界に入ってきたのは1.5mほどの魔物だった。多少手こずるだろうが討伐するには問題ないサイズだ。
魔物がこちらに背を向けた瞬間に飛び出した。
そしてこちらの槍が突き刺さるより早く、目の前にいた魔物が両断された。
何が起きたのか全くわからなかったが、無意識的に後ろへ飛び退いた。索敵に掛かったのは両断された魔物だけだったはずだが……。
両断したのは木の葉のような体をした4mの蟷螂だった。擬態していたのだ。身動き一つせずただじっと獲物を待ち構えていたのだ。魔物を両断するまで、何の気配も感じなかった。完璧な擬態と言っていいだろう。
蟷螂がこちらを向くと同時に後方へ駆け出した。
明らかに俺の手に負える大きさじゃない。
2mの餌が転がっているんだからそっちに行ってくれという願いも空しく、魔物は俺を追ってきた。
そして今に至る、というわけだ。
かれこれ10分は逃げているが魔物を振り切れる気配がない。障害物を駆使してなんとか逃げてはいるが、魔物は障害物を両腕の鎌で全て切り捨てて難なく追いかけてくる。魔血のストックは十分だが、このまま逃げ続ければいつかは無くなる。
何か仕掛けなければならない。このままただ逃げ続ければジリ貧だ。
実は一つ、策がある。逃げ始めてすぐに思いついた策だ。ただ確実性に欠ける為、普通に逃げ切れるならそれに越したことはないので今まで行わなかったのだ。
しかし10分も逃げ続けて撒ける気配がない。このままでは逃げ切れないだろう。本当に気が進まないがやるしかないようだ。
俺は索敵を行って目的の方向を定めると、そちらへ向かって一直線に走った。
魔物は相変わらず進行に邪魔な木々を切り捨てながらこちらへ向かってくる。
この策が上手く行かなければおそらく俺は死ぬだろう。額を嫌な汗が伝う。
逃げ続けること3分、目的地に着いた。
そこに居たのは6mはあろうかという魔物だった。
そう、俺の策とは魔物に魔物をぶつけるというものだったのだ。ただ、ここまで大きいのは想像してなかった。冷や汗がダラダラ流れてきた。
俺の後を追ってきた4mの魔物と6mの魔物が俺を挟んで相対する。
さぁどうなる……。
俺を挟んで両者はしばらく動かなかった。そして俺も迂闊に動けなかった。このまま両方とも俺に襲いかかってきたら、もう成す術がない。永遠に感じるような数秒が経った時、両者が動いた。
両者は俺の横を通り過ぎると、お互いに切りかかった。
そう、俺は賭けに勝ったのだ!生き残ったんだ!
しかし喜んでいる暇なんてないようだ。4mの魔物の片腕が切り飛ばされた。1分もしない内に決着は着くだろう。俺は全速力で駆け出した。
3分ほど走り続けたが、魔物は追っては来ない。なんとか命拾いしたようだ。その場に立ち止まり、膝に手をついて息を整える。無事に逃げ延びたことを実感してどっと汗が流れた。本当に危なかった。二度とこんな危険な賭けはしたくないものだ。
冷や汗に塗れた顔を拭い、俺は再び歩き出した。




