第23話 独り立ちと蟷螂
箱庭観光から二週間が過ぎた。
毎日の様に危険区域へと連れて行かれて、踏破した魔物の縄張りは10を超えただろう。討伐した魔物の数はそろそろ100に届きそうだ。死にかけた数はもう数えきれない。
豹の縄張りで右腕を飛ばされたり、犀の縄張りで脇腹を貫かれたり……。
思い出すだけで痛みが蘇りそうだ。もう止めよう。
飛蝗型の魔血は予想を遥かに超える再生能力を有しており、飛ばされた右腕もくっついたし、貫かれた脇腹も塞がった。いよいよ人外に片足を踏み入れた気がするが、それでこそ開拓者だと思う。
昨日訪れた山羊の縄張りで遂に魔力酔いを克服した。魔血を摂取した後も二足歩行で動けるのはとても新鮮だった。
魔力酔いを克服して初めて気づいたことだが、人間の体というのは四足歩行には向いていない。何を当たり前のことを言ってるんだ、とアラクネには呆れられた。それもそうだと思う。そもそも体が二足歩行しに適した作りになっている。そういう進化をしてきたのだ。
結果として何が言いたいかというと、二足歩行が出来るようになったことで、身体能力向上の恩恵を存分に受けられる様になったのだ。
具体的に言うと、魔血と同型の魔物と相対しても身体能力で勝るようになった。俺より大きい魔物にも押し負けないだけのスペックを手に入れたのだ。
だが何よりも両手が空いたのが大きかった。これで強力な武器を使うことができる。
人類の進化を短期間で実感した気分だ。
今日アラクネ達に連れて来られたのは蟷螂の縄張りだ。初の昆虫型の縄張りである。今までは縄張りの魔物と同型の魔血を使用していたので、魔力酔いを克服するまで昆虫型の縄張りを訪れることが出来なかったのだ。
遂に魔力酔いを克服したので、今日この縄張りを突破することができれば、俺を一人前の開拓者として認めるとの事だ。一種の試験だとアラクネは言っていた。
今までと違う点は大きく二つ。
一つは、使う魔血の型や装備を自分で選ぶ事。今までは二人に支給された物で戦っていたが、今日は一から全てを俺が決める。
もう一つは、アラクネとミストの手助けが一切ない事。今までは俺の手に負えない魔物は二人が予め駆逐していたが、今回はただ遠くから見守るだけだそうだ。俺一人で正真正銘の危険区域を生き残る事が今回の目的らしい。ちなみに魔物を十匹倒した時点で終了だ。
俺が選んだ魔血は狐の型。
豹などの大型の肉食獣の魔血は身体能力が大きく上がる代わりに索敵能力が低く、未熟な俺には十分に使いこなす事ができなかった。そのため身体能力と索敵能力のバランスが良い狐の型にしたのだ。
装備は初めに比べればとても豪華になった。
黒豹の魔物の毛皮で作られた外套と犀の魔物の皮の鎧に身を包み、手には三尾の狐の尻尾を加工した尾骨の槍を持っている。この槍は魔力を込めることで伸縮するという優れものだ。さらに尾骨の槍と同様のものが尻尾のように鎧から生えている。こちらも魔力を込めることで伸縮する。四足歩行の時はこの尻尾に大変お世話になったものだ。
この槍と尻尾を駆使して戦うのが新たな俺のスタイルだ。
ちなみに装備は自分で狩った魔物の素材を使うのが一般的なようだ。実力に見合わない装備は身を滅ぼすとアラクネに言われた。
こうして全ての準備を整えて蟷螂の縄張りを訪れたのが30分前だ。
そして俺は今、4m近くある蟷螂の魔物に追いかけ回されていた。
短いですが区切りがいいのでここまでです




