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第22話 秘密兵器

 観光を終えた俺たちは、開拓者組合(ギルド)の近くの正門から外界(アンビエント)へ出た。

 外界へ出た理由をアラクネに尋ねると、どうやら例の秘密兵器を使うためらしい。

 丸一日動けなくなるという物騒な秘密兵器を、遂に使う時が来たようだ。

 外界に出ないと使えないということはもしかして、秘密兵器って……。


「薄々感づいてると思うが、秘密兵器とは魔血(トランサー)のことだ」


 やっぱり魔血だった。怪我の治癒に使える魔血とは一体、何なのだろうか。


「今日お前に使ってもらうのは飛蝗型の魔血だ」


「飛蝗型の?なんで飛蝗型が秘密兵器になるの?」


「動物型と違って昆虫型の魔血には再生能力があるんだ。その中でも飛蝗型の再生能力が飛び抜けていてな。飛蝗型の魔血は開拓者(ストレンジャー)の必需品といっても良いくらいなんだ」


「そんな便利なものがあるならなんで今まで渡してくれなかったのさ」


「それは摂取してみればわかるさ」


 そう言ってアラクネは飛蝗型の魔血の入った筒をこちらに放り投げた。


 それを受け取り、一抹の不安を覚えながら腕に打ち込んだ。


 血管を通り、体内に魔血が巡る。

 魔血が十分に浸透したその瞬間、人間の感覚が薄れ、飛蝗の感覚を理解する。


 そして、俺はその場に倒れ込んだのだった。


 え、なんだこれ……!?


 魔力酔いを起こしたわけでもないのに、体の動かし方がわからない。むしろ、魔力酔いの時より今の方が酷いかもしれない。


「何が何だかわからない、って顔をしてるな」


 地面に倒れ込み、目を白黒させている俺にアラクネがしゃがみ込みながら話しかける。


「そんなオルフェに優しい俺様からのヒントだ。飛蝗の足は何本だ?」


 飛蝗の足は六本だ。


「んで俺らの手足は合わせて何本だろうな?……ここまで言えばわかるだろ?」


 俺たち人間の手足は、合わせて四本……。手足の数が足りていない……!


「そういうことだ。六本足で動く感覚がわかっても、人間の手足は数が足りないから動けないってわけさ」


 いや、でもちょっと待てよ……?


「アラクネは蜘蛛型の魔血を摂取しても動けるじゃないか!」


「そりゃあ、俺は魔力酔いを克服してるからな」


 魔力酔いの克服……。そう言えば、アラクネは魔血を摂取しても二足歩行のままだった。それと何か関係があるのだろうか?


「魔力酔いの克服ってのはな、人間の感覚と魔物の感覚を両立させることを指すんだ。魔血を摂取しても、人間の感覚を失うことなく動けるようになれば晴れて魔力酔いの克服ってわけだ」


 なるほど……。だから手足の数が足りていなくても、人間の感覚を保っているので二足歩行で動けるってわけか。


「俺の八つ足はそのさらに応用編だ。人間の感覚を持ったまま、部分的に魔物の感覚を使用しているのさ。まぁこれは追々教えるから楽しみにしときな」


 実際にこうして昆虫型の魔血を摂取してわかったが、アラクネの八つ足は本当にとんでもないことだ。あいつは簡単に言ってのけるが、俺には八つ足を動かすことなんて想像もつかない。改めて、アラクネの異常さを実感した。


 こうして地面に這いつくばっている間にも、飛蝗型の魔血の再生効果によって随分と怪我が癒えてきた。二尾の狐で負った傷はもう殆ど癒えていた。このまま数分もすれば三尾に負わされた傷も粗方治るであろう。


「あぁ、言い忘れていたけど、もちろん魔力酔いもするから頑張ってな」


 アラクネはウインクをしながら、笑顔で親指を立てた。


 丸一日動けなくなるとはこういう事だったのか、と憎らしいほど晴れ渡る空を地面から眺めながら、そう思った。


 魔血を摂取してから10分ほど経つと、昨日の怪我のほとんどが治った。まだ胸部に多少の違和感があるが、これは自然治癒でも問題ないとアラクネは言う。

 むしろ魔血による再生能力に頼りすぎると、人間の治癒能力が落ちるから使い過ぎは厳禁らしい。


 魔血が切れてからも魔力酔いで地面に芋虫のように転がっている俺をアラクネは散々馬鹿にした後、抱きかかえて開拓者組合(ギルド)へと戻った。


 こうして意識を保ったまま開拓者組合へ戻るのは今日が初めてだが、これはまずい。


 死ぬほど目立っている。


 アラクネが子供を抱えているのが相当珍しいらしく、四方八方なら視線を感じる。俺を抱えて戻るのはもう三回目なのにこれだ。前回と前々回はもっと酷かったのだろう。頭を抱えたいが体が動かなかった。


 恥ずかしさに悶えようにも動けない俺とは対照的に、アラクネは何も気にしていない様だった。やはりこれくらいの注目は慣れっこというわけだろう。八つ足のアラクネ様は流石ですね。


 最早恒例となった医務室へ着くと、アラクネは俺をベッドへ下ろし、じゃあこれから仕事だからまたな、と部屋を出て行ってしまった。


 これもまたいつもの様に部屋に取り残されて寂しさを感じていたが、悲しいことに今日は誰も来ることはなく、涙で枕を濡らしながら一日を終えた。


早く開拓しに行きたい

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