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第19話 知ってる天井

 目覚めて初めに目にしたのは、昨日染みを数えた見知った天井だった。


 ああ、またここか。危険区域から帰る度にこの部屋にお世話になっている。次回は自分の足で箱庭(ガーデン)へ帰ってみたいものだ。


 部屋の窓から外を見るとすっかり暗くなっていた。危険区域にいたのが朝方だったのでそれなりに寝ていたようだ。


 周りを見渡すが部屋には俺以外の人はいなかった。

 ベッドの脇の机に晩御飯が置いてあったのでありがたく頂いた。今日のメニューはパンと干し肉に少々のおかずだった。お腹が空いていたのであっという間に食べ切ってしまった。

 ご馳走様でした。


 ベッドから出ようとしたが激痛で動けなかった。あまりの痛みに視界が涙で滲むくらいだ。

 戦っている時はここまで痛みは感じなかった。興奮していて気にならなかったのだろうか。

 ベッドから出ることは諦めて横になった。

 暇である。早く誰か来ないだろうか。


 5分ほど暇を持て余してそわそわしていると部屋にアラクネが入ってきた。


「お、起きたか。今日はお疲れさん」


「また死ぬかと思った。五匹は厳しいよ」


「はは、文句はミストに言ってくれ。五匹って決めたのはあいつだ」


 やっぱりミストさんはスパルタだ。アラクネも負けちゃいないけど。


「体の調子はどうだ?」


「ベッドから出られないくらいには痛い」


「だろうな。最後はぼろ雑巾みたいに傷だらけだったぜ」


 精一杯戦った人間をぼろ雑巾呼ばわりするなんて、本当に酷いやつだ。


「一つだけ質問だ。最後に魔物が立ち上がった時、なんで逃げなかった?」


 アラクネの目つきが鋭くなる。雰囲気が一変した。


「逃げちゃいけない気がしたから。命を燃やして立ち上がった魔物に応えなきゃいけないと思ったんだ。あそこで逃げたら俺は俺を許せない」


「そうか。譲れない何かがあったんだな?それならいいさ」


 アラクネの雰囲気がいつものゆるい感じに戻った。今の返答を間違えたら結構やばかったのかもしれない。


「にしても本当に良く頑張ったな、オルフェ。正直な話、最後の三尾の狐は倒せると思ってなかったぞ」


「あ、やっぱりあれ格上だったんだ。三本の同時攻撃がなかったら確実に負けてたと思う」


「良くあのチャンスを逃さなかったな。お前の判断力には目を見張るものがあるよ。自信持って良いぜ。アラクネ様のお墨付きだ」


 アラクネのお墨付きを貰っても素直に喜べない俺がいる。

 いやアラクネが凄い開拓者(ストレンジャー)なのは知ってるけど、何だかなぁ。


「人が褒めてやってんのに失礼なこと考えてねえか?まぁとりあえず暫くは安静にしてろよ。その傷じゃ、自然治癒はちときつい。秘密兵器を使わないといけないな。明日は丸一日療養だ」


「秘密兵器って?」


「明日教えてやるよ。知りたかったらさっさと寝るんだな」


 勿体ぶりやがって。


 ここでゴネてもアラクネには通用しないのは身をもって知っているので大人しく引き下がる事にした。


 ただ、寝ろと言われてもさっき目覚めたばかりだから、中々寝付けそうにない。

 ベッドからも出られないし暇だと告げたが、アラクネは知るかと言ってそのまま部屋を出て行ってしまった。酷い男だ。ていうか一体何しに来たんだろうか。


 再び部屋に一人取り残されて寂しさを感じていると、部屋に誰かが入って来た。

 あれは……、初めて開拓者組合(ギルド)を訪れた時の受付嬢さんか?


 受付嬢さんはこちらに気づくと笑顔で手を振って来た。とりあえず手を振り返す。

 彼女は扉を閉めるとこちらへ近づいて来た。


「隣、良い?」


「大丈夫ですよ」


 俺の了承を得てから彼女は隣のベッドへ腰掛けた。


「えっと、オルフェ君であってるよね?」


「はい、オルフェです」


「あの時はごめんなさい」


 そう言って彼女は頭を下げた。

 謝られる理由に覚えがないため、目をパチクリさせてしまった。


「謝られるような事、ありましたっけ?」


「あの時ちゃんと対応できなかったじゃない。ずっと謝らなきゃって思ってたの」


 むしろ、思いの外まともな対応で驚いた覚えがあるんだが。


「オルフェ君みたいに開拓者(ストレンジャー)になりたいって開拓者組合に来る子供は偶にいるんだけど、大抵は揺籠学園を退学させられた覚悟のない子ばかりだったのよ。あなたもそういう子の一人だと思ったから雑な対応になってしまったの。本当にごめんなさい」


「いえいえ、そんな謝らないでください。こうしてアラクネやミストさんに鍛えてもらえてるので全然大丈夫ですよ!」


 結果としてこの様だけどね……。


「そう言ってもらえるとありがたいわ……。それにしても、アラクネさん達に鍛えてもらえるなんてすっごく羨ましい!」


「受付嬢さんも鍛えてもらいますか?漏れ無く死にかけると思いますけど」


 苦笑いしながら受付嬢さんに言う。


「私の名前は受付嬢さんじゃなくてリリカよ。よろしくねオルフェ君!」


 ニッコリと笑いながらリリカさんは手を差し出して来た。その手を握るとリリカさんはぶんぶんと腕を振った。傷に響くからやめて欲しい。


「そういえば、昨日もだけど随分と酷い怪我してるわね。なにがあったの?」


 昨日から今日までの出来事を事細かに説明する。

 話を聞くと、リリカさんは頬を引きつらせながら私は鍛えもらうのやめておこうかしら……と呟いた。俺もやめておいた方が良いと思います。


「それにしても三尾の狐の魔物を倒すなんて凄いじゃない!普通の開拓者だって苦戦するのよ?」


 あいつ、そんなに強い魔物だったのか。一歩間違えれば死んでいたかもしれないと考えると、今になって怖くなってくる。


「オルフェ君には開拓者の才能があるのかもね!これからも頑張るのよ!」


「ありがとうございます。死なないよう頑張ります」


 二人で笑いあった。


 その後はしばらく世間話をした。


 アラクネとミストさんが幼馴染だとか、アラクネは俺くらいの年頃から開拓者として働いているとか、ミストさんはアラクネを追って開拓者になったとか興味深い話をたくさん聞いた。


 これは後で問い詰めねばならないな。


 そんな話をしていると、あっという間に一時間ほどが経った。


「随分と話し込んじゃったみたいね。遅くまでごめんなさい」


「俺も暇を持て余してたんで全然大丈夫ですよ。それにすごく楽しかったです」


「私も楽しかったわ!また今度話を聞かせてね。それじゃあ、おやすみ!」


「おやすみなさい」


 リリカさんはこちらに手を振りながら部屋を出て行った。出る時にきちんと灯を消していくあたり気が利くみたいだ。どっかのアラクネとは違うな。


 リリカさんとそれなりに長く話していたので俺も眠くなってきた。

 色々と面白い話が聞けて良かったな。またリリカさんと話したいものだ。


 こうして俺の一日は終わった。


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