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第1話 崖っぷちオルフェ

 現在、人類は崖っぷちらしいと街ですれ違った人達が話していた。人類規模で崖っぷちならば、俺の人生が崖っぷちなのも仕方がないことなのだろう。


 つい先日、俺の住んでいた街が大量の魔物に襲われた。農作業ばかりしている住民が魔物に勝てるわけもなく、街は壊滅。危うく魔物に殺されそうになっているところを駆け付けた人に助けられてなんとか逃げ延びたが、両親は行方不明となり俺は一人ぼっちになってしまった。

 金がなければ身寄りもない。13歳にして人生崖っぷちである。


 俺が逃げ延びたこの街は箱庭(ガーデン)と呼ばれている。四方を壁に囲まれた、魔物に襲われる心配のない広大な大陸で唯一人類が安全に暮らしていける楽園だ。

 大昔のご先祖様が死に物狂いで確立してくれた箱庭だが、現在を生きる俺たちには大きな問題があった。

 昔よりも大きく増えた人口に対して、箱庭は狭すぎたのだ。

 そのため魔物に支配されている危険な外界(アンビエント)から、なんとか人類の暮らしていくための土地を獲得しなければならなかった。

 そこで立ち上がったのが、魔物が溢れる危険な外界を切り開く人類の希望、開拓者(ストレンジャー)だ。

  開拓者の活躍によって魔物の数が減り、なんとか外界でも人が暮らせる環境を整えた地域が管理区域と呼ばれている。


  箱庭で暮らせるのはある程度の資金を持った裕福な家庭であり、その日を生きるのに精一杯だった貧乏な我が家はこの管理区域にある街で暮らしていた。街は滅んで魔物に支配されてしまったため、もう管理区域と呼べるかわからないけれど。


  丸一日、箱庭の裏路地でこれからの人生について考えた結果、俺は開拓者になる決意をした。現在、人類は崖っぷちであるために、俺のような孤児を雇い入れる余裕がどこにもないのだ。一人で生計を立てるには開拓者になるしかない。


  そうと決まれば話は早く、箱庭唯一の開拓者育成学校として有名な揺籠(ゆりかご)学園の門を叩いたのが1時間前。金がない奴は受け入れられないと追い出されたのも1時間前だ。


  管理区域で暮らしていた俺は知らなかったのだが、どうやら揺籠学園は貴族御用達の学校らしく入学金が随分と必要らしい。開拓者になるのに金が必要とはこれまた不思議な話だ。


  学校に入れないならばもう仕方がない。残る道は化け物揃いの開拓者がひしめく開拓者組合(ギルド)にこの身を売りに行くしかない。

  必死の覚悟を決めて開拓者組合の扉を開いた。


  開拓者組合の中は意外にも綺麗であった。中に入るとすぐに受付が目に入ったのでそちらへ向かう。俺のような子供がいるのは珍しいのであろう、至る所から視線を感じる。

  視線をくぐり抜け受付まで辿り着くと、受付の女性が話しかけてきた。


「ようこそ開拓者組合(ギルド)へ。子供がここに来るなんて珍しいわね。御用は何かしら?」


  俺のような子供にもしっかりと対応してくれるとは、思っていたよりもまともな組織のようだ。

  周りの人たちも珍しい客に興味を持ったようで、あたりが静まり返った。

  こうも注目されるとなんだか恥ずかしいが、こちらはこれからの生活がかかっているのだ。気にしている場合ではない。

  意を決して口を開いた。


「俺を開拓者(ストレンジャー)にしてください」


 一瞬の沈黙の後、爆笑の嵐が起こった。

 人の決意を笑うとはいただけない奴らだ。


「あのね坊や、開拓者がなにかちゃんとわかってる?危険な外界(アンビエント)に身一つで乗り込むのよ。あなたみたいな子供じゃ務まらないわ」


「そうだそうだ、やめとけ坊主!死ぬだけだ!」


「命は大切にするもんだぞー!わははははは!」


 周りからたくさんの野次が飛んでくる。

 俺だって好き好んで死にたくはない。だが一人で生き抜くにはこれしか道がないのだ。


「家族が行方不明になり、身寄りがなければお金もありません。揺籠学園にも行きましたが、相手にしてくれませんでした。俺が一人でも生きていくには開拓者になるしかないんです。お願いします」


 そう言って膝を折り頭をつけた。

 子供の戯言だと笑っていた奴らは一様に口を閉ざした。さっき野次を飛ばしてきた不届き者は気まずそうな顔をしている。


「そうは言っても坊やのような子供に任せられる仕事なんてないわ。どうしたものかしら……」


 受付の女性は困ったように眉をひそめて対応に悩んでいるようだった。

 ああでもないこうでもないと女性がぶつぶつ言っていると、コートを着込んだ一人の男が俺の横に立った。コートで体型はよく分からないが、背はかなり高く、短髪で目鼻立ちのはっきりとした顔はとても女性受けしそうだ。


「小僧、先日の魔物の大規模侵攻の生き残りか?」


「はい。両親とはそこで逸れて以来行方がわかりません」


「そうか。もう後がないってわけだな。……ならば問おう。開拓者になる決意は本物か?外界で生き抜く覚悟はあるのか?」


「生きていくためならなんでもします。誰がなんと言おうと、俺は開拓者になります」


 男の瞳を見つめて言い切った。

 このままだと野垂れ死ぬだけだ。死ぬ気でなんだってやってやる。


「男に二言はない。後悔するなよ」


「このまま何もしないで死ぬなんてまっぴらだ。後悔なんてするものか!」


「いいだろう。ついてこい」


 そう言って男は玄関へと歩いていく。

 俺はその後についていった。


「おい今の八つ足のアラクネじゃないか?」


「アラクネ!?なんだってそんな男があんなガキに……」


「俺にもわからねえよ!一体どういう風の吹き回しだ?」


 周りの野次馬たちがざわついているのを他所に、俺たちは開拓者組合を出た。


 八つ足のアラクネ。その言葉の意味を知るのはこれからすぐ後のことである。


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