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第17話 起死回生の一手

 業を煮やした魔物は三尾同時攻撃を仕掛けてきた。

 左右から二本の尻尾が近づき、正面からは俺の体を串刺しにしようと一本の尻尾が迫る。

 正に、必殺の全方位攻撃である。


 だがしかし、この攻撃に唯一の勝機があるのだ。


 この三本同時攻撃、一部の隙もない完璧な攻撃に見える。左右は塞がれ、前には尻尾、後ろへ逃げようとも猛スピードで迫る正面の尻尾の餌食になるだろう。

 前後左右を抑えられたら、生き残る活路は一体どこにあるだろうか。


 刹那の思考の間に、三位一体の攻撃はすぐそこだ。

 一番最初にこちらへ到達したのは正面の尻尾だった。

 眼前に迫る尻尾を前にして、俺はニヤリと笑い、真上(・・)へ全力で飛んだ。


 そう、唯一の活路とは上だったのだ。前後左右を塞がれたら上に逃げれば良い。簡単な話だ。


 眼下を三本の尻尾が風を切りながら通り過ぎていく。

 そして俺は真ん中の尻尾に着地し、そのまま尻尾の上を駆け抜ける。


 三本全てを同時に攻撃に使ったのだ。躱してしまえば俺を阻むものはない!


 攻撃を躱されるとは思わなかったのだろう。魔物に一瞬の隙が生まれた。

 その隙を逃さずに尻尾を走り抜け、魔物の背中に食らいついて無防備な背中を鉤爪で滅多刺しにする。

 魔物は激痛で滅茶苦茶に暴れまわるが、食らいついた牙は決して離さない。

 痛みで理性も消し飛んだのであろう、魔物は背中に食らいつく俺に三本の尻尾を突き刺そうとしてきた。

 迫る尻尾を見逃さず、ギリギリまで引きつけてから背中を離脱する。


 俺を突き刺すはずだった三本の尻尾は勢い余って魔物の体を貫いた。

 そして数秒の後、魔物は崩れ落ちた。


 暫く様子を見るが魔物は動く気配がない。


 勝った。勝ったのだ。たった一人で。一人だけの力で。

 歓喜に体が震える。言葉にできない感覚が体を巡り、涙が溢れた。こんな感情は生まれて初めてだ。


 暫く歓喜の余韻に酔いしれた後、戦利品を回収するため魔物に近づく。

 あの伸びる尻尾は相当に便利な代物だ。三本も手に入るのはとてもありがたい。用途を考えると今から心が踊る。


 尻尾の根元に手を触れたその瞬間だった。


 尻尾が魔物の体から抜け、滅茶苦茶に振り回された。

 完全に不意を突かれた俺は尻尾に直撃して吹き飛ばされる。


 この化け物、まだ動けたのか……!


 何とか受け身をとって着地するが、完全に勢いは殺せず、そのまま地面を2mほど滑った。


 魔物は傷口から大量の血を吹き出しながらも立ち上がった。四肢は震えて、体を支えるだけで精一杯のようだ。

 しかし、それでもその瞳はギラギラと輝き、活力に満ちていた。


 最後の一撃は確実に致命傷だったはずだ。流れている血の量からしても間違いない。


 ならば、今あの魔物を動かしているのは生への執着、ただそれだけなのだろう。


 魔物の命は風前の灯火だ。

 それでも生存本能に従い、宿敵たる俺を殺そうと、魔物は最後の命を燃やして立ち上がったのだ。


 その姿をただ美しい、と思った。

 箱庭(ガーデン)では決して見られない、命のやり取りの中でのみ輝く、生命の美しさだ。


 応えなくてはならない。この美しさにふさわしい男でなければならない。


 このまま全力で逃げ出せば恐らく魔物は何もできずに死ぬだろう。

 しかしそれは男ではない。俺の魂がそれを許さないのだ。


 俺は腕に新たな筒を突き刺すと、先の一撃で限界を超えた体を根性で動かした。


 待たせたな。さぁ、やろう。最後の最後までやり切ろう。どちらかが力尽きるまで……!


 俺と魔物は同時に駆け出した。


 そこからは戦略も何もない、純然たる意地のぶつかり合いだった。

 切り裂いては切り裂かれ、噛み付いては噛み付かれ、お互い全力を出し尽くして闘った。


 先に倒れたのは、魔物の方だった。


 やはり最後の一撃のダメージが大きかったのだろう。

 魔物は突然、糸が切れたように倒れ込むと、今度こそピクリとも動かなくなった。


 勝利の余韻に浸る間も無く魔物が倒れてから直ぐに俺も倒れた。

 魔物が倒れたことによって体を支えていた気力が切れたのだ。

 ただでさえ限界を超えていた体を無理矢理動かした反動だろう。もう指一本も動かなかった。


 体の至る所が悲鳴を上げている。全身傷だらけで血に塗れていないところはないくらいだ。

 しかし嫌な気分ではなかった。全身ボロボロにされたのにこんな気持ちになるなんて、少し前の俺では思いもしなかっただろう。


 外界(アンビエント)も中々悪くないものだ、と思ったのを最後に意識を失った。


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