第15話 死闘の狼煙
魔物の腹部を切り裂き、魔血を回収する。全ての筒を魔血で満たし、消費した分の魔血は経口摂取で補う。
魔血を十分に取り込んだら、傷の具合を見る。
体に刺さっている毛は横っ腹に四本、左足に三本。毛はどうやら5cmほど刺さっているらしい。出血はそこまで多くはない。毛が止血の役割を果たしているようだ。
毛は抜かずにそのままにしておき、体から飛び出している部分だけを折った
これで応急処置は終了。そもそも医療に関する知識が乏しいからやれることも少ない。
体を軽く動かしてみるがなんとか耐えられない痛みではない。痛みで多少動きは鈍るが活動はできる。
この魔物からは使えそうな部位がないので、死体は放置したまま先へ進もう。
動くたびにズキズキと痛む傷を気にしないようにしながら森を進んだ。
強化された感覚を使用しながら索敵を行う。
何かが索敵に引っかかった。まぁ魔物であろう。
ここにいるのは狐ばかりなので、こちらが気づいたということは向こうもこちらに気づいているということ。
徐々に気配が近づいてくる。
現れたのは1mにも満たない魔物にしては小柄な一尾の狐であった。
こちらを目にするや否や、魔物は飛びかかってきた。
毛を飛ばさないだけさっきの魔物よりマシだな、と思いながら左にステップして躱す。
着地の際に傷が痛み、歯を噛みしめる。これは長期戦は明らかに不利だと悟った。
再び飛びかかってきた魔物に、身を低くしてこちらも踏み込む。
うまく魔物の下に体を潜り込ませ、腹を鉤爪で引き裂いた。
接近戦ならこっちのものだ。
腹を切り裂かれた魔物はそのまま地面に倒れ込み、暫くして動かなくなった。
なんだかあっけない幕切れだが、魔物は魔物だ。
二匹目、撃破。
殆ど時間をかけずに倒せたので、魔血の補給を行わずに再び歩を進める。
10分ほど森を散策している間に二匹の魔物を仕留めた。三匹目、四匹目と一尾の小柄な魔物だったので苦もなく倒せた。
どうやら毛を飛ばしてくるのは二尾の狐だけみたいだ。もう一度あいつを相手にするのは中々厳しいものがあったので、俺としてはとてもありがたかった。
何はともあれ残り一匹だ。さっさと終わらせよう。
魔血を新たに打ち込み、森の散策を再開する。
3分ほど森を歩いていると、最後の一匹が索敵に引っかかった。
向こうもこちらに気づいたようで、こちらへと近づいてくる。
一尾の魔物なら楽に終わるから良いのにな、と思いながら魔物を待ち構える。
願いも空しく、茂みから現れたのは1.5mほどの三尾の魔物だった。
尾の本数を確認した瞬間に逃げるか否かの選択が脳に駆け巡る。
体格は俺より少し大きい程度。しかし尾の本数は俺が苦戦した二尾より一本多い三尾だ。
どうする。あの二人が通したってことは俺に倒せないレベルではないってことか?
考えを巡らせている間に、魔物はこちらに近づいてきた。
10mはもう切っているが毛を飛ばしてくる気配はない。あまりに近づかれるのもまずいので、俺の射程である5mを維持しながら後ろへ下がる。
暫くこの距離を維持したまま、円を描くように移動する。
一向に毛を飛ばしてくる気配がないので、三尾の狐は毛が飛ばせないのだろうか。
二尾より弱いってことはないだろうから、何か隠し玉があることは確実だろう。
こちらから仕掛ける気がないことに気付いたのか、魔物はついに飛びかかってきた。
先ずは様子を見るために横へ跳びのき攻撃を躱す。
そして足が地面に着く直前、俺の体は何かに思い切り弾き飛ばされたのだった。




