第13話 危険区域、再び
アラクネに叩き起こされて、俺の一日は幕を開けた。
「いつまで寝てんだオルフェ。もう行くぞ」
まだ外は薄暗く、日が登り切っていないような時間だ。
眠気眼を擦りながら起き上がる俺にアラクネは今日の目的地を告げた。
「今日向かうのは狐の縄張りだ。ここにお前の装備を置いとくから、着替え終わったら開拓者組合の入り口まで来い」
まだ意識がはっきりしていない俺を置いてアラクネは出て行ってしまった。
ベッドに置かれた俺の装備を手に取る。
渡された装備は簡易な皮の鎧に、この前剥ぎ取った鼠の爪を加工して作られた鉤爪の二つだった。
初めて着ける鎧に四苦八苦しながら装備を整えると、言われた通り玄関へと向かった。
玄関には白銀の鎧に身を包んだアラクネと、純白のローブを身に纏ったミストさんが居た。
「おはよう、オルフェくん。よく眠れたかしら?」
「まだ眠いです……」
「こんな朝早くにごめんなさい。私もアラクネも午後から仕事があるから許してね」
「俺らの貴重な時間を費やしてやってんだから感謝しな」
二人のこの対応の差よ。
「ミストさん、わざわざ俺のために貴重な時間をありがとうございます」
「おい俺にありがとうはないのか」
「さんきゅ」
「雑だなおい」
アラクネと戯れながら俺たちは歩き出した。
目的地に向かう道中で色々な話を聞いた。
これからの俺の目標は第一に魔力酔いを克服すること。これができないことには開拓者として使い物にならないそうだ。
次に自分のスタイルに適した型の魔血を見つけること。大体の開拓者は一つの型の魔血を極める傾向にあるようだ。
アラクネは見ての通り蜘蛛型だが、ミストさんはどのような型を使ってるのか気になって質問してみた。
唇に人差し指を当てて、見てのお楽しみよ、と微笑みながら言われた。
俺の身の上話をしたり、アラクネとミストさんが喧嘩したり、賑やかに歩いているとあっという間に目的に着いた。
やってきたのは狐の縄張りらしい。鼠の縄張りと同じように木々が生い茂る森だ。
「さて、狐の縄張りに着いたわね。今日オルフェくんにはここで魔物を倒してもらうわ。そうね、ざっと五匹くらい倒してもらおうかしら?」
「五匹は多くないですかね!?」
「魔血に慣れなきゃいけないんだもの。これくらいは倒してもらわないとね」
ミストさんもどうやら中々にスパルタのようだ。
冷や汗が頬を伝うのを感じた。
「ほら魔血だ。入ってるのは狐型だな。前回と同じように10分も持たないから足りない分は自分で補給しろ」
アラクネから魔血の入った筒を渡された。
「自分で実際に飲んでみてわかっただろうが、経口摂取だと体内に取り込まれる魔力の量が少ないからな、今回は追加でこいつも渡してやる」
さらに空の筒を五本渡された。これに魔血を貯めて戦えってことか。
「狐型の特徴は鼠型と大差はない。異なるのは鼠型に比べて視覚が優れてるくらいだな」
鼠型と大差がないのは俺にとって嬉しい情報だ。
前回の経験がそのまま使えるってことだもんな。
「それじゃあそろそろ始めるか。俺たちが近くにいると中々魔物が寄って来ないから、俺たちは先に行かせてもらう」
「えっ」
てっきり二人が付きっきりでやるものだと思っていたのに。
「やばそうになったらちゃんと助けてやるから安心しな」
「最後に一つだけ注意ね。自分より大きな魔物が現れたら今のオルフェくんじゃ太刀打ちできないからすぐに逃げるのよ。私たちの方でも近寄らせないように努力はするけど、完全とは言えないわ。肝に命じておいてね」
「そういうことだ。頑張れよ、オルフェ」
最後に不穏な言葉を残して、アラクネとミストさんはあっという間に走り去ってしまった。
一人で取り残されるとやはり不安ではあるが、遠くで見守っていてくれるのだ。頑張ろう。
俺は魔血の入った筒を腕に突き刺した。




