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第12話 アラクネという男

「これで開拓者(ストレンジャー)に必要な知識は粗方話し尽くしたかな」


「そうね、大体こんなものじゃえないかしら」


 この話を危険区域に放り出される前に聞きたかったなぁ……。


「あ、そういえばここはどこなんですか?」


 今更な疑問である。忘れてたんだから仕方ない。


「ここは開拓者組合(ギルド)の医務室よ。急な話だけど、オルフェくんには今日から開拓者組合で暮らしてもらうわ」


 家を失った俺にはありがたい話である。


「不満はなさそうね。良かったわ。私は仕事があるからもう行くけど、今日は早めに休むのよ。明日からまた危険区域に行かなきゃいけないんだから、体に疲れは残さないようにね」


 明日からまた危険区域かぁ。……危険区域!?


「またあそこ行くんですか!?」


開拓者(ストレンジャー)になりたいなら魔血(トランサー)に慣れなきゃね。あ、でも明日は私もついて行くから安心してね。どこかの馬鹿みたいに一人で放り出したりしないわ」


 一人で放り出されるよりは確かにマシだが、そういう話ではない。あの人外魔境はまた行かなければならないことが問題なのだ。


「明日から危険区域漬けの日々が始まるからめげないようにね。それじゃあ私はもう行くわ。アラクネあとよろしくね」


「あいよー」


 危険区域漬けの日々!?

 待て待て待て聞いてないぞなんだその地獄。


 パニックに陥っている俺を他所にミストさんは部屋を出ていってしまった。やっぱり開拓者はみんなどこかおかしい。


「アラクネ!説明してくれ!!どういうことなんだ!?」


「聞いたとおりさ。明日から危険区域巡りの日々が始まるぞ。楽しみにしてな」


 ケラケラとさぞ愉快そうにアラクネが告げる。


「なんだってそんな苦行しなきゃいけないんだ!」


「ミストが言った通り魔血に慣れるのと、お前のスタイルに合う型の魔血を見つけるためだよ。開拓者がみんな通ってきた道だ。観念するんだな」


 そう言われるとぐうの音もでない。ずるいぞ。


「オルフェ、お前には期待してるんだ。あれだけの説明で初めて危険区域に放り込まれてあそこまでやれるなんて並の人間にできることじゃない。簡単にくたばってくれるなよ」


 今まで散々馬鹿にしてきた癖にいきなりそんなこと言うのは卑怯だ。大人はいつだって汚い。

 ていうか説明足りてない自覚あったのかよこの野郎。感動を返せ。


「このアラクネ様が直々に鍛えてやるなんて、これほど光栄なことはないぞ。ありがたく思えよ」


「前から思ってたけどアラクネってそんなに凄いの?そんな風には全然見えないんだけど」


「本当に失礼なガキだな。あとで開拓者組合にいる他の開拓者に聞いてみろ。俺様の素晴らしさが嫌というほどわかるだろうよ」


 俺の頭をぺしんと叩きながらアラクネは言った。

 こんなに自信満々ってことはそれなりに有名ってことなのだろうか。


「そんなに凄いなら、なんで俺みたいな子供にこんなに目を掛けてくれるんだ?もしかしてそういう趣味?」


「殺すぞクソガキ。単なる気まぐれだ。気にすんな」


 デコピンされた。鎧の手甲から放たれるデコピンは飛んでもない威力だった。めっちゃ痛い。


「もうこんな時間か。俺も暇じゃないんでな、そろそろ仕事に行くぞ。今日は早めに休んどけよ。お前が思ってる以上に体は疲れてるからな。開拓者は一瞬の油断が命取りだ。常に万全の体調を整えておけよ」


 そう言ってアラクネも部屋を出て行ってしまった。


 医務室に一人でポツンと取り残されると無性に寂しくなったので、新たな住処である開拓者組合を散策ついでにアラクネの話を聞いてまわることにした。


 開拓者組合を一通りまわって色んな開拓者に話を聞いた結果、わかったことがある。


 アラクネ、とんでもない化け物だった。


 単身での母体(マザー)討伐に始まり、数多の未踏区域の踏破や数百の魔物を相手に一人で殲滅したなんて話も聞いた。

 単身での母体討伐はここ十年でアラクネしか成し遂げてない偉業らしい。


 ちなみにアラクネって名前は本名ではなく、単身で討伐した母体の通称らしい。単身討伐の話が有名になりすぎて母体の通称で呼ばれるようになったとか。

 魔物の通称で呼ばれるって嫌じゃないのかな……。

 まぁ本人はむしろ気に入ってるそうだからいいか。


 ちなみに母体の通称は崩壊したかつての文明の神話から取られることが多いらしい。母体が神話の存在のように圧倒的な存在だからだそうだ。


 ミストさんの話もよく耳に入ってきた。

 彼女も彼女で集団とはいえ母体を討伐したことがあるらしく、中々の化け物との噂だ。


 こんなとんでもない人たちに鍛えられるなんて、実はとんでもないチャンスではないだろうか。

 明日からの危険区域巡りが少し楽しみになってきたかもしれない。

 抑えきれない興奮を胸に眠りについた。

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