腹ペコきんぴらごぼう
やっと名前も出てきましたが、どうなることやら…なにとぞよろしくお願いします。
ぐぅ〜っと盛大にお腹を鳴らした男性は恥ずかしそうに顔を赤くしつつゆり子に慌てて話しかけてきた。
「あ、す、すいません!俺、あの、今日営業回りが忙しくて、昼飯まだ食べてなくて!」
「あの、あー、それでその、弁当…美味そうだなぁと思って、思わずじっと見ちゃって…」
「なんか、すいません。変な目で見ていた訳じゃないんです!決して!」
確かに男性は少し疲れた顔をしており、仕事が忙しかったのだろうとゆり子は思った。
そして、ふと
「このお弁当でよろしければ食べます?」
と男性に向かって卵焼き以外は手をつけていないお弁当箱を差し出してしまった。
「えっ!?」
男性はゆり子の予想外の返しに固まってしまった。
確かに美味しそうだとは思ったがまさか弁当をそのまま差し出してくれるとは思いもしなかった。
固まっている男性の反応を見てゆり子は自分のやったことを思い返してみた。
(やっぱり迷惑だったかしら。見ず知らずの人にこんなこと言われたら気持ち悪いわよね。)
(お腹が空いてるからって食べ物をあげたりしちゃ駄目よね。)
「あの、すいません。食べかけのお弁当なんて気持ち悪いですよね。」
「気にしないでください。…えっと、じゃあ私はこれで…」
そう言ってゆり子がお弁当を片付けようとしていると、男性がそのことにハッと気がつき急いでゆり子の手を止めた。
「あの!食べます!あ、食べたいです!」
力強く大きな手で触れられ思わずビックリするゆり子。
「えっと、無理しなくてもいいんですよ?」
ゆり子が遠慮がちにそう言うと男性はさらにゆり子に近づいて懇願してきた。
「無理とかしてないです!そのキンピラとかスゲー美味そうだし!食べさせて貰えませんか?!もう俺腹減って死にそうなんです!」
「そんなに言うなら、たいしたものも入っていないですけど…どうぞ」
すると男性は嬉しそうに笑いゆり子の隣に座ってお弁当を食べ始めるのだった。
誰かに自分の作ったものを食べてもらう機会などなかったゆり子はドキドキしながら見守った。
「あの、お口に合いましたか?」
最後にミニトマトを食べてペットボトルのお茶を飲み干した男性はゆり子の問いに元気に答えた。
「はい!めちゃくちゃ美味かったです!」
「いっつもコンビニ弁当とかばっかりだったから!
キンピラが一番美味かったっす!」
「ふふ、キンピラごぼうは得意なのでお口に合ったみたいで良かったです。」
男性の返答に嬉しくなり、思わずゆり子の顔に笑みがこぼれる。
そんなゆり子に見惚れていた男性は自分が名乗りもしていないことに今になって気がついた。
「あの、今更なんですけど、俺そこの明道建設って会社で働いてる有岡慧って言います。」
「弁当のお礼になんかして欲しいこととかあれば!なんでもしますんで!あ、変な意味じゃなくて!」
そう言って有岡はまた顔を赤くしてあたふたとしている。
「そんな、たいしたことはしていないのでお礼なんて、気にしないで下さい。」
ゆり子はわざわざお弁当程度で律儀な人なんだなと有岡のことを見て思った。
「いや、本当に遠慮せずに!ご飯奢るとか!あ、なんなら悩み相談でもなんでも!」
遠慮するゆり子に尚も喰いつき、またしても懇願してくる有岡の言葉にじゃあ…と思いついたお願いをすることにした。
「私の悩みを聞いて貰えますか?たいしたことではないんですけど、アドバイスなんかがもしあれば…」
「はい!なんでも相談して下さい!」
有岡はゆり子の言葉に食い気味に返事をしてきた。
それならばとゆり子は思い切って相談することにした。
「あの…。私、卵焼きが上手くできないんです。」
「卵焼きですか?」
「はい、どうしても美味しくできなくて、何かコツとか知ってるかなって…。たいしたことじゃないし、詳しくないなら全然それでもいいんですけど。」
まさか相談内容が卵焼きのコツとは有岡も驚きはしたが、むしろそんなことでいいのかと思ってしまう。
「そんなことでいいんですか?俺、カレー作るのと卵焼き焼くのだけは得意なんすよ!なんか嬉しいっすね!」
そう言って笑った有岡を思わずまじまじと見つめてしまう。
「本当ですか?ふわふわの優しい味の卵焼きを作りたいんですけど、どうしたらいいですか?」
ゆり子は今まさに救世主が現れたと思った。
彼ならば己の悩みを無事に解決してくれるのだろうと、そう思い心臓がドキドキした。




