【閑話】智蔵、永岡の記憶を呼び覚ます
このお話は、前話から三ヶ月以上もお休みしてしまった為、流れを思い出してもらう閑話になっています。
永岡さんと一緒に大まかに思い出していただければ幸いです。
※飛ばしてしまっても全く問題ありません。
「ところで智蔵、オイラ達ぁ何してたんだっけか?」
「勘弁してくだせぇよ旦那。あっしより一回りは若えんだから、まだボケるにゃ早うござんすよ…」
「いや、流石にこんだけ間が空くと歳なんざ関係ねえだろうよ?」
「間とは?」
「あーあーあーあー。さてはお前、アイツの肩持つ気だな?」
「アイツって誰のこってす?」
「ちっ、まあいいや。せいぜい良く書いてもらうんだな?」
「へぇ、そりゃ飛び切りに」
「ったく……。いいから何してたか教えてくんなっ」
「ふふ。では簡単に掻い摘んで話しやすぜ?」
「ああ、よろしく頼まぁ」
「まず、旦那とあっしは沢田様について辻斬りと心中の亡骸を見に行ったんでさぁ。
そこに鳴海屋のお凛が現れやがって、旦那がお凛の挑発に乗って、北の掛かりだった心中の情報を持ってるかお聞きになるもんだから、お凛のヤツを張り切らせちまったんでやすよ。そんであっしがお凛の情報の裏を取る為に走る事になって、旦那はお凛と一緒に情報源を捜しに行ったんでさぁ」
「あぁ、そうだそうだ。だんだん思い出して来たぜぇ。
で、オイラとお前の事は思い出したが、忠吾や他のみんなはどうしてるんだっけか?」
「勘弁してくだせぇよ旦那ぁ……」
「まあ、物のついでじゃねぇかぇ? そんなケチ臭え事言ってねぇで早く聞かせてくんなっ。で、どうなんでぇ?」
「そう急かさねぇでくだせぇよ……」
「で、誰がどうなってんでぇ?」
「全く人使えの荒ぇ旦那だぜ。分かりやしたよ、今から話しやすって。
まず北山の旦那でやすが、北山の旦那は松次と胡乱な武家を捜しに出掛けてやす。そんで…」
「ちょいと待った。松次は小石川へ走らせたんじゃなかったのかぇ?」
「そこからでやすかぇ……。
ったく、小石川へ走らせるのを覚えてんなりゃ、他も覚えててくだせぇよ……」
「悪りぃ悪りぃ、なんせ間がすこぶる空いちまったんでな?」
「また間のせいでやすかぇ……。
ま、仕方ねぇ。そんじゃお話しやすよ、へぇ。
松次は今朝になって、昨日みそのさん達を尾け回していた武家が、別んとこで胡乱な行動をしていた武家と同一人物だったと気付いたんで、小石川へ走らせる前に直接旦那に報告させたんでやすよ。
そんで急遽その武家を見てるって事で、北山の旦那と松次をその武家の探索に回して、松次と一緒に行くはずだった翔太にゃ、伸哉を誘うよう言って、二人で小石川の弘治先生んとこへ走らせたんでさぁ。
ちなみに広太と留吉の二人は、辻斬りの聞き込みでそれぞれ町回りさせてやす」
「流石親分、手下の事はしっかり把握してんじゃねぇかぇ?」
「よしてくだせぇよ。ったく、こんな事ぁ旦那もご存知なはずですぜ?」
「ハハ、まあ、なんせ間がな?
で、みそのや千太にお千代はどうなんでぇ?」
「んな事ぁ知りやせんやっ……って言いてぇとこでやすが、ここまで来たらあっしの知ってる範囲でお話しやしょう」
「よっ、流石親分っ! その調子で洗いざらい話しちまえっ!」
「洗いざらいって旦那、面白がらねぇでくだせぇよ……」
「悪りぃ悪りぃ、なんせ久々なもんで嬉しくてしょうがねぇんでぇ。
で、みその達はどんな塩梅なんでぇ?」
「困った旦那でやすよ全く……。
みそのさんは相変えらずお忙しいお人でやして、朝一番で周一郎様の長屋へ赴きやして、旦那が気になすっていた話しをしに行きやしたよ。
そんで帰りにお凛を尾けてる武家を見つけやして、心配で後を追ったはいいが、こいつが逆にその武家に絡まれる始末でやして、ちょうど弁天一家の正吉が通りかからなきゃ、大変な事になってたんでやすよ」
「ふふ、アイツらしいっちゃアイツらしいやな?」
「笑い事じゃねぇですぜ旦那。今回は偶々運が良うごぜぇやしたが、拐われてもおかしかねぇ状況だったんですぜ?
旦那にとぅて大事なお方なんで休みら、ちったぁ心配してくだせぇよ。それにくれぐれも無茶しねぇよう、日頃から言っとくのが旦那の務めですぜ?」
「すまねぇ……」
「本当、頼みやすぜ? ふふ。で、話の続きでやすがね、みそのさんと正吉が立ち話してるとこへ、これまたちょうど留吉が通りかかりやして、あれこれ今あった事を話してるうちに、あの武家がお凛を追ってるんじゃねぇかと、みそのさんが思い出したもんで、慌てて留吉が後を追う事になったんでさぁ。そんでその後二人が茶店で休んでやすと、今度は亜門の旦那が現れやして、正吉が勝手に疑ってただけなんでやすが、亜門の旦那と話せた事で、亜門の旦那の辻斬りの疑いが晴れたと同時に、思わぬ事件の真相に近づいたんでさぁ。まあこれは本人達はそれほどの事だとは思ってねぇようでやすがね? とにかくあれこれ話してるうちにみそのさんが思いついたみてぇで、あの武家の似顔絵を亜門の旦那に描いてもらってたんでやすよ。そこへまた順太郎さんとお百合さんが現れやして、みんなで飯を食いがてら、みそのさんの本来の用事の鳥越の小握り屋へ行く事になったんでさぁ。用事ってぇのは、あっしは食った事ねぇんでやすが、チャーハンとか言う新しい料理の試食会らしいんでぇ。なんだか色んな味付けを披露したらしいですぜ? あ、そうだ。近えうちにあっしらにも振舞ってくれるよう、旦那からも頼んどいてくだせぇよ?」
「ふふ、そうさね。オイラも食いてえし、近えうちに必ずな?」
「すいやせん、話が逸れちまいやしたね?
そんで無事試食会を終えたみそのさんは、順太郎さんとお百合さんと別れ、今回の事件に関係ありそうな情報と、例の武家の似顔絵を渡す為、旦那を捜しに出たってところでやす。
ま、みそのさんはこんなとこでやすね?
そんで千太とお千代でやすが、朝一でみそのさんの仕舞屋を訪れて来た春吉ってぇ長屋の友達に、稼ぎ口を紹介して回ってやすよ。
そんな塩梅でやす。それにしてもあの子は本当に聡い子でやすねぇ?」
「す、凄えなおい。お前は一体何もんなんでぇ…」
「ふふ、こいつぁあっしのお務めでやすからねぇ。それより旦那、これでちっとは思い出してくれやしたかぇ?」
「あ、ああ。大まかには思い出したぜ。あとは追々思い出すだろうよ」
「追々って……。もう出番なんでやすから、しっかりしてくだせぇよ旦那」
「んな事ぁわかってらぁ。そんじゃ行くぜ智蔵!」
「へい、旦那!」
長々とお休みしてしまいごめんなさい。
ゆるりとしたペースではありますが、今日から更新再開いたします。
よろしくお願いします。




