2話-4
毎夜毎夜、気配もなく押されるドア。
僕の神経は削られる一方だった。
相変わらず誰にも伝えられないまま時間だけが過ぎて行った。
今考えるとなぜだろうと思う。多分アレな事に耐性のある姉に話せば分かってくれただろうし、もしかしたら解決法とかを教えてくれたかもしれない。でもやっぱり決定的なことを言われるのが怖かったのだろうと思う。
正直、この頃は夜が来るのが怖かった。
お陰で僕はベッドサイドの明かりをつけたままじゃないと安心して眠れないようになっていた。
初日の怪異からこっち、あのおっさんを見たことはなかった。だけどそれがどうした、あいつが見える見えないに関わらず、恐らくそこにはいるのだ。隙間を作ろうとアレは毎夜やって来ている。
これが原因でノイローゼになりそうだった。いや少し・・・そう片足くらいは突っ込んでいたのかもしれない。
寝不足で回らない頭で「まずいなぁ」と思いながらもその日も布団を握りしめていた。ドアが押されるのに決まった時間はなかった。が僕が部屋に入ってベッドに寝っ転がって寝るまでの間に始まる。
まぁ、それはそれで良かった。だって考えてもみて欲しい。2階に上がって部屋に入ろうとしたら何かが自分の部屋のドアを押している様なんかを目撃した日にゃ、階段を転げ落ちる自信しかない。
そんな取り留めのない考えが乱れ飛びながらウトウトしかけていると、ふいにドアがノックされた。そう言えば少し前に姉の部屋のドアが開く音がしていた。
当然ながらノックしたのは姉だった。
勉強していると思っていたが、どうやら片付いたのか僕の部屋に漫画を借りに来たらしい。
へらっと笑って僕にお勧めの漫画を尋ね、本棚から5冊程度抜き取る。
「そう言えば明日は休みだし、夜更かしするのかもしれないな」そんな事を思いながら姉を見送る。
おやすみと挨拶を交わして姉は手を振り僕の部屋を出ると、パタンと控えめな音でドアが閉まった。
もう今日はこのまま平和に眠れそうな気がした。
なんとなく、親が一緒だと怖い夢を見ない的な、根拠のない安心感。
姉がそこのドアを開けてきたのだから浄化とか?されているのかも的な漠然とした期待。姉がお祓いをしたなんて話は聞いたことはなかったが、アレな話の中で姉はいつも大抵大したことにはならない。何かに守られているのかもしれないなんて、かねてから思っていたからか安心しきっていた。
だが違った。姉はもしかしたら何か守られてるのかもしれない。分からないけど。でもただそれだけ。僕は姉じゃない。
今日もドアは音を立て始めた。
まだ続きます。