2話-3
「ただ単に寝落ちだと信じたい。」
羽根布団の中で朝を迎えた僕はそんな事を最初に思った。
だって気絶したかもしれないなんて信じたくない!思春期のオトコノコにとってそんな屈辱的な・・・でも天秤にかけてもやっぱり今回も「怖い」の方が上回っていた。
異様な気配を感じてドアが動くのもそりゃ怖いと思うが、何の気配ものないまま物理的に物質が動くなんて、僕にとってはそっちの方がはるかに怖い。
だってそうじゃないか。気配を感じないのならソレが足元にいても背後にいても気づくことなんてできないのだから。
そんなことを想像してしまった数秒前の自分を本気でぶん殴りたい。鳥肌を立てながらカーテンをざっと開けて朝日を浴びると少し気持ちが落ち着いてきた。
今回は一番ダメージの大きい視覚情報がなかったお陰か、はたまた前回のことで少しは耐性が付いたのかは定かではないが少しだけ冷静を取り戻すための所要時間が短かったように思う。
眼鏡をかけたまま「寝落ち」してしまったため弦が当っていた部分が痛くてこめかみあたりを揉みながら軽く溜息をつく。
次の瞬間ドアからノックが響いた。
身体が一瞬にして強張るのを感じる。
喉の奥がキュっと塞がるような感じもした。
「大丈夫~?」
ドアの向こうから声をかけてきたのは姉だった。
肩の力が抜けて、幾分脱力しながらも「大丈夫―」と返した。
起きてるんなら早く降りて来るように言い、姉は階下に降りて行った。
それからすぐに僕も手早く着替えを済ませてリビングに降りた。ドアを開ける際に少しだけ緊張したのはご愛嬌だろう。ちなみにやっぱりドアや廊下には何の痕跡も残ってはいなかった。まぁ、ドアを外から押されただけで何が残るのかと言われればそうだろうけど、アレなことにありがちな足跡とかドアがぐっしょりとか、ノブに粘液がとかそんなことは一切なかったってこと。当たり前かもしれないけど。
そして家族は今日も特に変わったことはない様子だった。
いつも通りのほほんとした雰囲気のリビングに拍子抜けしてしまう。
特に日常生活にストレスを感じているわけではないし、勉強は好きではないけど、転校前の学校の方が進んでいたこともあって今の時点でプレッシャーを感じることもなかった。受験生でもないし。
何が言いたいのかというと、もしかしたら引越とかのストレスでノイローゼ(?)状態に陥ってこんな幻覚や幻聴を知覚しているのではないかと思ったのだ。
だって、ここはいわゆる「おじいちゃん家」で小さい頃から盆暮れ正月には帰って来ていたのだから。いわくがあるとかそんな事は考えられないし、祖父や祖母からそんな話も一切聞いたこともない。当然今までもこんなことが起こった記憶もない。
しかしそんな僕の自己完結を嘲笑うように、それから毎夜ドアを押されるようになっていた。
まだ続きます。