2話-2
目覚まし時計のアラームが鳴って目を覚ますと、僕はまだ布団を頭からかぶったままだった。寝てしまったのか、もしかしたら気でも失ったのかもしれない。恐る恐る手探りで時計を布団の中に引きずり込んでアラームを止める。窓からは朝日が差し込んでいて、いつもと同じ朝が来ていた。
昨晩感じた変な視線も感じない。ちらっと布団の隙間からドアの方を見るとそこには何もなかった。昨晩開けたままの状態のドアにそろりそろりと近づいて廊下も見てみるがやっぱり何の形跡もなかった。
そんなアレなものを目にしたことも初めてでひどく動揺したのを覚えている。
母や姉にはこんな話できなかった。話したら最後「本当にあったこと」だと認定されるようで恐ろしかった。
アレは僕の見間違いだったのだ。僕は目が悪い。あの時は寝る前でコンタクトレンズも眼鏡も外していたし、きっとそのせいで見間違いをしたのだろう。
だけどその日から僕は隙間に恐怖を感じるようになっていた。詳しく言うなら開口部の隙間だ。ドアや窓、押し入れの襖やクローゼットの扉とか違う空間と繋がる場所の隙間が怖い。あの感情の伺えないギョロっとしているのに虚ろな目を想像してしまい鳥肌と共にぞっと背筋が凍る。
これから暑い時期に向かっていくというのにドアだけじゃなく窓やカーテンをきっちり閉める僕に母は怪訝な顔していたが、深くは突っ込まなかった。
まだそれほど夜に気温が高いこともなかったし、何より暑い方がましだ。あの目を顔を再び見ることになるくらいなら汗だくになってやろうじゃないかと変な意地も張っていた。ただ単に怖かっただけだけど。
夏休みに入るかどうかといった頃まで、特に変わったことは起きなかった。
まぁ未だに隙間は作らないように生活をしていたことが功を奏したのか、次第に僕の恐怖心も薄らいでいった。
ただここでディフェンスを弱めて牡丹灯籠のような目に合う気は一切ないので、戸締り(?)はしっかり続けていた。
ちなみに僕の部屋にも姉の部屋にも鍵は付いていない。家の中に鍵を付けるという発想が親にはなかったし姉も僕も特に鍵を欲していなかった。あっ、それともう一つ当時この家に住んでいたのは母と姉と僕の3人。父は単身赴任で県南の方にいた。毎週末には帰って来ていたけど。
そんなある夜、僕はきっちりと隙間つぶしを行なってから、いつものようにマンガを手にベッドに転がった。朝になったらカーテンは開けるし、空気の入れ替えのために学校に行く前に雨の日以外は窓を開けて網戸にして行く。その作業もすっかりルーチンと化していた。
とにかく寝っ転がったその瞬間ドアの前でかすかな音がしたような気がした。ドアも窓も閉まっているので外の音をどれだけ拾うのか・・・聞き違いかもしれないが、何か音がしたような気がした。ドキドキと心臓がうるさくて周りの音もよく分からなくなりそうだ。緊張でキーンと耳鳴りがしてきた。眼鏡をしっかりかけ直してじっとドアの方を見つめる。
小さくキッと音がしてドアの遊び部分が小さく動いた。ノブを回さないとドアは開かないが、それでもドアが外から押されている事には違いない。僕の部屋は外から中に向かって押して入るタイプ。逆に姉の部屋は外側に引いて入るタイプ。何かの拍子に開きやすいのは断然僕の部屋の方だ。
誰の気配もないままにキッギッと鳴り続けるドアに喉まで出かかった悲鳴を飲み込んで再び僕はあの日のように羽根布団を頭からかぶり意識を手放した。
まだ続きます