4話-6
で、今現在姉から質問されている。いったいこの電話の主は誰だったのか。
もう夕方である今この時間なら、近しい親戚達は祖母の事について大体知っている。でも、姉がまだ実習に出発していない時間にこの事を知っていた人物となると、姉を除くとここにいる4人だけだ。母は性別からして違うから除外してもいいだろう。父には連絡が行っていたけど、姉が実習に行くことなんか知らなかっただろうし、念のためチラリと父を見ても首をかしげて「知らん」と言うばかり。祖父は救急車に同乗して病院へ行ってからは診察室と手術室の前にずっといたそうで電話なんてしていないと言う。
条件に合いそうな若めな男は残る僕しかいないが、僕はその時間中学校に向かっている最中だ。中学校は高校から更に遠い。そんな時間は多分川沿いのどこかを凍えそうになりながら自転車をこいでいたはずだ。
「じゃあ・・・誰も電話していないんだね・・・ふーん、今日は不思議なことが目白押しだねぇ」と小首をかしげる僕たちを前にまた「不思議」でバッサリ片付けられた。
だけど、実際この電話だって、祭事のロウソクの火だって不思議で片付けるしか的確な解は浮かびやしない。まぁ姉はきっと親戚が集まった時に「電話した?」と聞くくらいの悪あがきはするだろうけど。姉はこういうアレな事に寛容だったし耐性もあったけど、実際自分が体験していない事、今回で言うなら電話の声を直接聞いていないのでこの件の真偽は不十分だったのだろう。アレかアレでないかの可能性を探る程度には常識はあったのだ。潰し切ってからの切り返しの速さや、実体験にまつわることに対しては随分とアレだったのだけれど・・・
病院を出ると北風が吹き抜ける中、駐車場へと小走りで向かう。ICUの面会時間は普通の病棟と比べて面会時間が限られているし、仕事の前に行けるようになのか、開始時間も早めに設定してあったため姉の自転車はこのまま病院へ置いて帰って、明朝の面会時に一緒に病院まで車に乗っていくことになったらしい。なんだかずるい。それが分かっていれば、僕だって病院で待っていたのに・・・家から病院までの間だけでも土手で凍えそうにならずに済むという羨ましさは半端なかった。しかも高校はここから自転車で5分程度。明日の姉は勝ち組だ。(気分の問題なので何の勝ち負けなのかは聞いてはいけない)
乗ってきた車に行きより1名増えて乗り込んで、エンジンがかかる。ジワリと温かさを感じてホッと一息つくと姉はポツリと口を開いた。
「大体さぁ、学校に電話があったのって8時前だよ?私が学校に着いてすぐ位。お祖母ちゃんの手術が終わったのってお昼過ぎてからでしょ?電話主はなんで分かったんだろうね、大丈夫だって」
といつものように姉はへらりと笑った。
まだ続きます