4話-4
僕はイマイチ納まりの良くない気持ちを抱えながら三宝なんかの後片付けをしている祖父に近付く。横目で僕の顔を見た祖父は農業でブイブイ言わせたゴツイ手を僕の頭に乗せて髪をかき混ぜるように撫でると「大丈夫」と笑った。そんな祖父の笑顔に僕も力が抜けてへにゃっと笑みが崩れる。色んな事が混ぜこぜで僕の精神状態は張りつめていたようで、「おばあさんも良くなるよ」と言って一息ついた祖父の様子で、ようやく自分もほっとしたような気がした。
中3にもなって頭を撫でられるなんて、僕は一体どんな表情をしていたのかちょっと気にはなったけど、そんな些細な事はポイっと放り投げておくことにした。気にしたら負けだ。いや、ほんとそっちの方が精神衛生上良くないに・・・決まってる。
一息付けたら気になるのは先ほどの現象で・・・
「祖父ちゃん、さっきの何?祖母ちゃんが良くなるってメッセージ?いつもこんな風になんの?」
不安から興奮にシフトしつつもあり、若干の照れくささもありで僕はそんな風にマシンガン質問を祖父に浴びせかけた。まくしたてるような僕の言葉に祖父は軽く肩をすくめるようにして首を横に振る。
「いやあ、おじいさんもあんなの初めて見たわ。でも火を見た時に怖いと思わんかったからな。悪いもんじゃなかろう」
そう言えば僕もびっくりはしたけど怖くはなかった。本当にほんとーーーにびっくりはしたのだけど・・・
振り返ってみると父も、そして怖がりな母も「キャーッ」とも何とも言ってなかった。お得意の「不思議だね」発言で収まっている。
再び居間のコタツで暖を取りつつそんな不思議談議に花を咲かせていると、電話が鳴った。
それは姉からで、高校から直接病院に寄ったらしく「このまま待っているから来て」との事だった。
結局着替えてもいなかった僕は、母から投げかけられるそれ見たことかと言わんばかりの呆れ半分の視線をかいくぐり急いで着替えて家を出た。無事に姉と合流した僕たちは全員でICUへと向かった。やたらと白い部屋で祖母にはたくさんのチューブや機械が繋がれていたし、頭髪は剃られていて巻かれた包帯が痛々しかった。でも、朝見たように顔は紅潮しているわけでもなく、何かをぐっと我慢するような表情でもなく、スースーとただ寝ているような規則正しい呼吸音に僕は何となく安心したのだった。
ICU内に立ち入る用の給食当番みたいな恰好を待合手前の空間にあるロッカーで脱ぎながら、僕は姉にさっきの不思議な火の話をした。姉は興味深そうに笑うとその時の状況を詳しく知りたがった。
「へぇー!なんかすごそう・・・私も見たかった~」と少し悔しそうに笑う。しばらくロウソクの話で盛り上がった後、ふと何かを思い出した様子の姉は僕たち4人をグルリと見回して口を開いた。
「ところでさ・・・」
まだ続きます