4話-3
3人がそれぞれ大きな溜息をついていると、大夫服に着替えた祖父が居間へと入って来た。聞くと祖母の病気平癒の為に祝詞を奏上すると言う。神棚の部屋へと、家にいる全員が集めらた(姉はまだ帰ってきてなかったけど)。祖父は神棚に向かって火打石で切り火してから幣(神主さんとかが振る、棒に白い紙がわさーっと付いてるヤツ)を手に取り、バサリバサリと振ると、僕の気持ちもほんの少しだけ落ち着く気がした。
僕と両親が正座している一番前に白とブルーの大夫服で背筋を伸ばし祝詞を朗々と唱える祖父の姿は、凛としててすごくかっこいい。神道にはお盆と言う概念はないからお正月に同じようにお奉りをやるのだけど、僕も姉もこの姿の祖父が大好きだった。
ぼーっと見ていると、祖父が祖母の病状の回復を願って祝詞を上げた。そして一同が頭を下げて「祖母ちゃんが早く治りますように」と祈って頭を上げると、燭台に立ててある4本のロウソクの火が徐々に高くなっていく。風が吹いて火勢が増しているわけではなさそうだ。そんな風は感じないし、火は一切揺らめくことなく真っすぐに上へ上へと昇って行く。この部屋はロウソクを灯したり、さっきのように幣を振ったりするので他の部屋と比べて天井が高く作られている。それでも少し心配になる程度には火の勢いは半端ないことになっていた。
横にいる両親を見ると、きょとんとした顔でそれを見ていた。頼みの綱の祖父はまだ平伏して祈り続けている。僕たちは火の状態を監視するように息を詰めて身じろぎ一つできずにじっとしていた。こんな時の時間って本当に長く感じるんだなとどうでもいい事を考え始めた頃、祖父が頭を上げて柏手を打とうとした瞬間、ロウソクの火は4本が4本ともそれぞれ二又に分かれて竜巻のように2本で絡み螺旋を描きながら上へと火勢を増した。さすがの祖父も若干上ずった声で「うをっ・・・」と呟いたが、それもほんの一瞬のことで背筋を伸ばし直して大きく柏手を4つ打った。僕たちも慌てて祖父に追随して柏手を打つ。最後の柏手がパンっと乾いた響きを収めると共にロウソクの火は一瞬にしていつも通りの揺らめきに戻ったのだ。
滞りは・・・なかったが、なんだかよく分からない状態の神事も終わり、僕は扇を持って火を消しに神棚に近付きまじまじと見る。角度を変えるように何度見ても変わったところは見当たらない。割と長い時間激し目に燃えていたように思うのにロウソクは短くなっているように感じなかった。ロウソクの芯の部分の溶け具合なんかもいつもと変わらないし、天井や神棚に煤が付いているという事もなかった。
頭には盛大にハテナが飛ぶし、緊張や色々な事も相まってなんだか落ち着かない気分がしたが、父が「はぁ~~、今のはすごかったな?」と母に話していたので白昼夢ってわけでもなさそうなことが僕には救いだった。
まだ続きます