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4話-2

僕は怖かった。


祖母の顔は青色や土気色なんかではなく、何なら少し紅潮気味でいつもより血色が良いくらいだった。そっとひそめられた眉根も生気がないようなものではない。


ただ、普段は見たことも聞いたこともないような変ないびきをかいているその異様さは、僕をビビらせるには十分だった。


姉は祖母の頭を横向きにして、母から受け取った毛布を体に掛けていた。その後も母と姉は祖母に向かって一生懸命呼びかけている。僕は何にもできずにただただそんな様子を呆然と眺めながら立ち尽くしていた。そうこうしている内にやって来た救急車に祖父は一緒に乗り込み、母は父に連絡してから後で車で行くと隊員へと伝えた。


少し強張った顔で僕たちに向き直った母は「あんた達は学校行きなさい。何かあったら電話するから」と告げた。僕は別に休みでも一向に構わなかったけど(と言うかウエルカム)、これからバタバタするっていうのにわがままデスカ?と言わんばかりの姉の冷ややかな目に負けて、素直に頷いた。


「じゃあ何かあったらすぐに学校に電話してね」と姉は言って家を出る。学生が携帯を持てる時代じゃなかったのだからしょうがない。


結局、学校に電話がかかることはなく僕は通常の時間割を消化して家路へと付いた。中学校から家のおおよそ中間地点にある病院に運ばれた事は救急車が出発する時に聞いていたので、寄ってみるとウチの車はなかった。受付で聞くなんてことは人見知りな当時の僕にはハードルが高くて出来るわけもなく、自転車でくるっと駐車場を一回りして病院の敷地を出る。本当は・・・祖母の様子を聞くのが怖かっただけなのかもしれない。


制服の詰襟をくいっと上げて隙間風の侵入をできるだけブロックしようと試みつつ「さむっ」と呟いてペダルをこぐ足に力を込める。猛然とこいで耳と鼻の感覚がなくなる頃家に着くと、話し声の聞こえる母屋へと走り込む。居間のコタツに潜り込むように飛び入ると父が帰ってきているのが見えた。台所で母と何か話し込んでいる。温かいお茶を持ってきた母は僕を見ると「ただいまくらい言いなさい」と眉をひそめた。


「祖母ちゃんは?」

「くも膜下出血だって、お祖母ちゃん。手術も無事に終わったけど、まだ意識が戻ってないから・・・戻ってみないとどんな状態か分からないし、とにかくしばらく入院が必要みたい。今はICU(集中治療室)に入ってるの。お姉ちゃんが帰ってきたら病院行くから、着替えときなさいよ」


くも膜下出血のヤバさはよく分からなかったけど、それが脳の病気だっていうことくらいは知っていた。だから「頭を手術した」ってフレーズが祖母の顔にオーバーラップして僕の気分は重く沈んでしまった。


母が入れてくれたお茶は口を付けた時にはすっかりぬるくなっていて、そんなお茶を僕と父と母は黙ってすすっていた。

まだ続きます

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