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3話-13

「ひゃぃ!」


変な声が口から飛び出た。テレビも消えて雨の音と家族の声しかしない中、そんな物理的な音が聞こえたものだから、僕は飛び上がりそうになってしまう。

ガタッガタンと大きな音を立てる玄関に僕は恐怖しか感じなかった。が、祖母は「おじいさん、帰ってきたかな」とゆっくりと立ち上がった。僕は祖父がそんな大きな音を立てて玄関を開けようとしているなんてこと全く想像つかなかったし信じられなかったから、祖母を止めようと必死で割烹着を掴んだ。


その隙に姉はスクッと立ち上がると玄関の方へ走って行く。僕は「待って!」と半ば叫びながら手を伸ばしたが、その手が姉を捕まえる事は出来なかった。

姉のことはもちろん心配ではあったが、姉を追いかけて玄関の様子を見に行くなんてこと僕にはできなかった。「あらあら」と少し困り顔をした祖母に頭を撫でられながらも、僕は裾を掴んだままへたりと座り込んで動けない。何が何だか分からず、とにかく怖くて目の前が涙で橙色に滲みかけた時、玄関の戸がガラリと開く音と共に祖父の大きな声が響いた。


それは確かに聞き慣れた祖父の声だった。だけど、そんな大きな声を出すのを聞いたことがなかったし、姉の名前を叫ぶように呼ぶのも初めてだった。そう、祖父は戸が開いた瞬間、姉の名前を呼んだのだ。


何事かと(いぶか)しんだ祖母に半ば引きずられるようにしながら玄関へ続く廊下へ出ると、三和土(たたき)に祖父の方を向いて立つ姉の後ろ姿が見えた。雨に濡れてぐっしょりと水を滴らせる祖父と姉は何やら話しているが、開け放たれた戸から聞こえる外の雨音が激しくてよく聞き取れない。少し苦い表情を浮かべて話をしていた祖父は次の瞬間、目を見開いた。一言二言、呟くや否や姉の手を取ると、豪雨の夜間にも拘わらずそのまま出て行ってしまった。半分抱きかかえられるように外に出された姉のもう片方の手にはあの川で拾った紫色の石が握られているのが見えた。



その急な出来事に我に返った祖母が慌てて玄関から飛び出るが、祖父と姉の姿はもう見えなかった。

今のように携帯がある時代でもないので、連絡も取れず一体どこにいるのか見当もつかず、夜なのに預かっている孫が夫と一緒にプチ行方不明状態・・・この時の祖母の心労は如何(いか)ばかりかと思う。当時僕ももちろん心配はしていたが、祖父という大人が一緒なのだからとそれ程深刻には捉えていなかった。



その考え通り、姉も祖父も翌朝にはちゃんと戻ってきていて、みんな揃って朝ごはんを囲んだ。

祖父は少し難しい顔をしていたが、姉はいつも通りの姉だった。じっと姉を見る僕に笑いながら「大丈夫だよ」と言うのだった。


今朝は太陽が顔をのぞかせている。久しぶりと言う程でもないのかも知れないけど、差し込む陽射しに僕は何となくホッとしたのを覚えている。

まだ続きます。

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