3話-4
祖父の家に帰ると川から戻って来た僕たちを見て、祖母がバスタオルとおむすびを持ってきてくれた。体の水分をふき取ってもらうと心地良い疲労感とさらりとした新しい服の感触が気持ち良くて眠気が襲ってくる。お腹が空いていたのも事実だったので、手にしたおむすびにぱくりと齧りついた。程良い塩気がとても美味しくて、夢中で食べて麦茶を飲むと人心地付いた。先に着替えさせてもらい、お腹もいっぱいになった僕は縁側から部屋に這い上がり、畳の上にごろりと転がるとウトウトとしながら姉と祖母の方を見ていた。祖母が新しいバスタオルで姉の頭を拭こうとして、ふと手が止まっている。
「あれ?髪飾りどうしたの?」
髪飾りなんか付けてたっけ?朝の姉を思い返してみると、なるほど三つ編みに結んだ先をビーズ?みたいのを通した髪ゴムを付けていた。あれは姉が夏休みの工作で余った材料をゴムに通したものだ。何面体かでキラキラ光ってぱっと見は店で売っていそうな仕上がりに姉も喜んでいた。それがなくなっていた。髪は川の帰りに見た通り、三つ編みではなくなっていた。
「・・・外れてなくなっちゃったみたい」
しょんぼり言う姉の頭をワシワシと拭きながら祖母も残念そうな顔をしていた。
「今度リボンを作ってあげようね、何色がいい?」
家の離れで洋裁をやっていた祖母の作業場には大量の生地があったので、そこからリボンを作ってくれることになり、姉のテンションも少し上向いたようだった。ワイワイとレースとか布の色とか素材?とかの話を楽しそうにしていた。そんな賑やかな話し声を聞きながら僕は本格的なお昼寝タイムに突入したのだった。
目が覚めたのは、少し日の傾き始めた時間だった。外からはカナカナカナとヒグラシの鳴く声に混ざってカエルの声も聞こえていた。晴れてはいたが、少し強めの東風が吹き抜け、夕立が降るのかもしれないなとぼんやりと考えていた。今聞いた姉の「雨が降るよ」の一言に引っ張られただけかもしれないけど。
果たしてしばらくすると、ボタリと大きな雨粒が落ちてきた。ボタリボタリと間隔のあった大粒の雫はあっという間に雨煙を立てるように激しくなった。それを姉と2人で縁側に座ってぼんやり眺める。
姉は雨も好きだと言ってた。雨のにおいや風に含まれる湿気も敏感に感じ取っていた。僕なんかは圧倒的に晴れの方が好きだけどなぁ。そもそも姉には好きなものが多い。嫌い物で物事を語りそうになる僕とは違ってびっくりするほど嫌いなものが少なかった。食べ物ならパクチー、動物なら鳩が苦手なようだったけど。
「・・・私の髪ゴム、ほんとは盗られたんだよ、ひどい」
雨に煙る庭を見つめながら、姉はポツリと呟いた。盗られた?誰に?と聞こうとして姉の方を向くと姉は部屋の中にある座卓の方をじっと睨むように見ながら言葉を続けた。
「白いのがクルクルって足に巻き付いて、あっと思ったら今度は髪を引っ張られて・・・盗られた」
突然の夕立のため薄暗くなった縁側で、姉はそんなアレな事を言い出したのだった。
まだ続きます。