3話-2
その日は特に暑かった気がする。川への期待値がそう感じさせていただけかもしれないけど、とにかく水遊びには恰好の陽射しだった。縁側に座り照り付ける太陽を麦わら帽子で遮りながら祖母からも滔々と注意事項を聞かされ気だけが早っていく。
祖父に何か言われていた叔父はその後すぐにどこかに電話をかけていた。しばらくして到着した叔父の会社の同僚を見た時に「1人じゃ大人が少なかったのかな?」と姉が呟いた。
まぁ、確かに小学生低学年の2人を連れて、川で泳ぐのに20代前半で体力があるとは言え1人では心許ないだろう。この時は「お祖父ちゃんに怒られたんだ」と少しニヤニヤした気分だった覚えがある。多分いつも怒られている僕からしたら、叔父ちゃんだってやっぱりお祖父ちゃんには敵わないんだなとでも思っていたのだろう。同じ末っ子としての何かシンパシー的なものでも感じていたのかもしれない。バカである。
ともかくそんな単純な小学生とアレな小学生の2人を連れて叔父達は和やかに川へと出発した。祖父の家からも車で10分かからないその川は一級河川だったが、少し堰のようになっている場所があり流れが緩やかで大人の腰上くらいの水深があるポイントだった。過去に一度だけ父に連れてきてもらった事があった僕は先客のいないそのきれいな川面にテンション上がりまくりで浮き輪を掴んで川へ飛び込もうとした。もちろん海パンは祖父宅で履いて来ていて準備万端だった。
律儀に準備体操をしている姉の横をすり抜けて行こうとしたところを、叔父の友人に浮き輪ごとひょいと捕まえられてしまった。足をバタバタさせる僕の姿を見ながら姉が笑っていた。オレンジ色の水着におさげに結んだ髪が揺れる。その後準備体操を4人できっちりとやり、僕の軽はずみな行動から大人2人に再び注意事項を懇々と言い聞かされるという生殺し状態。姉からのジト目を気づかないふりして僕は神妙に頷きながらも心ここにあらずで川面を見つめていた。
やっとお小言から解放された僕たちは、叔父が先に堰に入ったのを確認して、GOサインが出るのを待って姉と手を繋ぎせーので飛び込んだ。あっ、飛び込む前には心臓にパシャパシャ水も掛けたよ、ちゃんと。
大きな水しぶきを上げて飛び込んだ川は程良く冷たくて、とても気持ちが良かった。水が循環しないプールとは違って緩やかながら出来ている水流で水はずっと澄んだままだし、さざ波にキラキラと反射する陽の光もすごくきれいだった。
川遊びというか、川泳ぎを堪能していると姉が素っ頓狂な声を出して転んだ。多分苔の付いた石でも踏んだんだろうと思いながら僕はパチャパチャと浮き輪を掻いてくるりと姉の方を向いた。姉はせっかく今まで濡らさなかった頭までしっかり濡れてしまったようで、少し困惑しながらキョロキョロと自分の周りの川面を見ていた。
まだ続きます。