2話-11
ともかく境界だから覗くのだと判断した姉は、もともとないはずの境界なんだから潰してしまえばいいと思ったそうだ。さすが姉、発想の飛躍が半端ないと思う。そもそも潰し方も僕には分からないし。潰せるものなの?境界って。
姉が取ろうとした行動はこうだ、「許可を求めずに入ることで、ここに境界がないということを認識させる!」・・・ふんわりと本当にふんわりとしか理解できない。魔物は招き入れないと入れないと言われているあの手の派生の考え方だろうか。
漫画を抱えておっさんを横目で見つつ僕の部屋の扉をノーノックで開ける。おっさんは元々大きい目を更に見開いていたらしい。扉にちょっと引っ掛かりを覚えた姉はおっさんの抵抗だと思ったらしく、物理的な力を込めて押す。こんなところに境界なんてないと強く念じながら。すると扉は通常通り開いたらしい。チラリと見るともうおっさんの姿はなかった。
大仕事を終えた気分になった姉は僕の勉強机に漫画を置くと、煌々と灯る各種の明かりに苦笑しながらベッドのライトを消す。例の短いメモを残した後、ドアを出る前に部屋の電気を消して自分の部屋に戻った。話を聞く限り「透けた」わけではなさそうだ。そこのところも聞いてみたが家族会議の時はそう言ったけど・・・というかそう言わないと収まらない感じがしたから言ったが、姉自身も透けたという認識は全くなかったらしい。ただ、漫画を本棚に返そうとした時にドアの横にあったはずの本棚が見当たらなかったと、何気にゾクッとすることを言い放った。こういう所が嫌なのだ、心臓に悪い。
後は先ほどの出来事に繋がる通りだと肩をすくめる。
もう何の問題もないと思っていたのに、朝っぱらから僕の悲鳴が聞こえてめちゃくちゃびっくりしたらしい。家族は大集合だわ、悲鳴は続いているわ、その上涙声の(この時は絶対に泣いてなかったはず)僕から入室を断固拒否。微妙に傷ついたと口を尖らせる。だけど僕的にはそんな事知ったこっちゃない。そんな余裕なんて微塵もなかったのだから。
結局この時は分かったような分からないような、本当に姉の言う「不思議な出来事」だと落とし込む事しかできなかった。まぁ、今振り返っても「恐ろしく不思議な事」としか思えないけど。ただ、この日以降今に至るまで、おっさんを見る事はもちろん、扉を押されることはただの一度もない。
姉が境界を潰したせいかどうか分からないが、僕の部屋には平和が訪れてくれた。
境界は普段は家の中にはないと姉は言った。じゃあ家の外にはあるのだろうか?庭とかには?僕には境界なんてもの見分けられない。自分が覗かれなくても覗いているのを見てしまう可能性だってある。僕の隙間嫌いは心の奥でぼんやりと燻ぶったまま未だに直らない。
2話はここまでです。次の3話もお付き合い下さると嬉しいです。