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2話-8

言った。言いやがった。僕に降りかかった約1ヶ月の葛藤と、今朝の衝撃をシレッと「不思議」の一言で片づけた姉は、これまた悪びれた風でもなく「不思議だよねぇ」とダメ押してヘラッと笑う。


余りの緊張感のなさに脱力していると父も母もそれに同意した。

家族で「不思議なこともあるもんだ」といった空気感を醸し出されると、さすがの僕も同意せざるを得なかった。不本意では・・・思いっきりあったのだけど。

結局、今後この「不思議」な事が起こったら誰かに言う・・・とは言っても母は無言の拒否を示していたので、言うとしたら父か姉。前にも言ったように父は週末しかいないので、もうそれは姉に言うって事とイコールなのだけれど。

何はともあれ、そのように決着した。決着させられてしまった。


その後それぞれの朝に戻るために動きを再開した父や母達を尻目に、僕は姉を捕まえた。いくらなんでも不思議だねで片づけられては、思春期の尊厳まで大盤振る舞いした僕が報われなさすぎる。


ストレートに姉にアレは何だったのか聞いた。本当にそう聞いたのだ。取りようによってはおっさんのことに、また姉の透けたことに繋がるように、ふわっとさせてまとめて聞くために。


いつ頃からだろう、姉はアレな出来事をあまり語らなくなった。小学校の頃は謎な出来事やそれこそ不思議な出来事、聞いただけでは良く分からないような、つまりはアレな話をよく聞いていた気がするのだが、段々と減り始めて今ではほとんど自分からは語らない。たまにポツリと呟くのを聞いたりすると、アレな事が起きていないわけではなさそうな様子ではあるのだけど。


姉はチラリと僕の目を見て口を尖らせた。

「だから大丈夫か聞いたのに」

「は?」


意味が分からなかった。質問の答えになっているか?なっていないだろう?全部の物事が終わったタイミングで大丈夫か聞いてそれが何になるのだろうか?いや聞かれたこと自体は別にいいんだけど。心配させちゃったかな?と思わないでもないし。


さっき姉にコツリと叩かれた頭をさすり少し呆気にとられながら頭にハテナを大量に飛ばしているのを察したのか、姉は言葉を続ける。


「こないだ、朝に大丈夫か聞いたでしょ?大丈夫じゃないならなんで言わないの」



記憶を探る。そういえば・・・いつだったか覚えていないけど、おっさんを見てからドアが押され始めて・・・そう朝だった、姉に「大丈夫」か聞かれたことがあった。


姉は心配性なんかではなさそうに見えるのだけど、本当によく「大丈夫?」と聞いてきた。僕だけじゃなくて親や僕の友達なんかにも。そこで選ぶ言葉?と思うこともしばしばあって、何なら全然関係ない友達同士との恋バナや猥談の最中でさえ突然言われたことだってあった。今日の天気を聞く感じで会話の中に潜ませるので、すっかり慣れてしまっていたが、これが飛び出す度に少しバカにした感情が芽生えるのもいつものことで。そう言えばあの時も「普通おはようじゃない?」くらい思ったのかもしれない。



そこまで考えて僕は背筋に冷たいものが這い上がってくる感覚に襲われた。

ようするに姉のこの反応から鑑みるに、アレな事だから変なタイミングでも姉は「大丈夫?」と確認するのだという事に、姉から投げかけられるこの言葉の裏に全てアレが忍んでいるのではないのだろうけど、タイミング違いの「大丈夫?」にはかなりの高確率で影響しているのだという事に気付いてしまった。


絶句している僕に姉はいつものようにヘラッと笑って「大丈夫」と言った。

まだ続きます。

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