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2話-7

活字の表現では追いつかない程度には前衛的な叫びだったことだろう。情けない声でもあったはず。若干涙目にもなっていた僕は、叫び声を止めることができなくなっていた。吐き続ける息で喉が痛み、時に激しく咳き込みながらも弱々しく声を上げる。


階下から大きな音がして、家族が慌てている様子が手に取るように分かった。

父の大きな声が僕の名前を呼ぶのが聞こえる。母のテンパった声も聞こえてきた。階段を駆け上がってくるその音に少し安心しながら腰が抜けたようにドアの横に座り込む。


ふいに少し離れた場所でドアの開く音と姉の声が聞こえた。「なに!?どうしたの?」そう慌てながら家族に合流した姉の声に僕ははじかれたように立ち上がる。

本棚を背中で押しつつ、バリケードを破られないように抑えながら「姉ちゃんは入ってくるなっ!」と叫んだ。


「これなんで開かないんだ?コラっ!開けなさい!」外では父がそう叫びながらドアを叩いている。結局数の力で押し切られる形で、本棚ごとずるずるとドアが開かれる。

飛び込んできた父と母の剣幕に押されるように先ほどまでとは打って変わって僕は口を閉ざしてしまった。


とりあえず落ち着いてリビングで話をしようと3人で部屋を出ると、姉は律儀に部屋に入らず待っていた。姉から伸ばされた手に少したじろいで身体がすくんでしまう。そんな僕の姿に姉は少し困ったような顔で笑ってから、ポカリと僕の頭を叩いた。なんで叩かれたのか意味が分からなかった僕が頭を押さえていると、「大丈夫?」と姉は聞いて来た。


「だ・・・いじょ・・ぶ・・・じゃない!だって姉ちゃんが!」

ヤバイ、鼻の奥がツーンとしてきた。これ以上喋ったら泣く。僕は思春期の尊厳を守るためダッシュで階段を降り階下の洗面台に駆け込んだ。冷たい水で顔を何回も何回も洗っていると、少し落ち着いてきて、バツの悪さを感じながらリビングに向かうと家族会議さながらに皆が着席して僕を待っていた。母が入れてくれた冷たい野菜ジュースが喉と心に沁みる。


僕は大きく息をつき決心を固めるとおっさんを見た事、そしてその日から続くドアが押されるという現象の話をポツリポツリとし始めた。母は少し気味悪そうに北側の天井を眺めている。僕の部屋の下は両親の寝室になっている。自分が寝る部屋の上でそんなアレな事が起こったなんてそりゃ気持ち悪いだろう。父はといえば「なるほど、それでバリケードか」と抜群の推察力を繰り出していた。


少し和んだ僕はそこで話を思いきって今朝の出来事に移してみた。


バリケードをして寝た

のに

姉が本を帰しに来て

なおかつ

電気を消してメモを残して行ったこと。



家族の視線が姉に集まる中、姉はコーヒーカップの中身をこくりと飲み込んで口を開いた。

「バリケード?なんかなかったよ?最初少し引っ掛かりはあったけど普通に入って出て来れたもん」


そんな事を言う姉に今度は僕の方に視線が集まる。

バリケードはあった、絶対あった!電気も点いていた!マンガもなかった!と僕はここにきて尊厳も何もかなぐり捨てて泣きながら訴えたのだった。こんなアレな目に合って、なおかつ家族からも疑いのまなざしを向けられるなんて耐えられなかった。なんで僕がなんで僕がなんで僕がとこれまで幾度となく繰り返してきた自問自答が涙とともに噴出した。



姉はそんな僕にタオルを差し出しながら言ったのだ。

「じゃあ私が透けたのかな?不思議なこともあるもんだね」と。

まだ続きます。が、20日まで出張のため少しペースが落ちるかも?

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