TS的不条理系ショートショート
登場人物
座間 真尋人間 20歳 男 大学生:漫画研究会に属する。格闘ゲームで最も好きな技はミッドナイトブリスと公言してはばからない。
佐波 三十日人間 19歳 男 大学生:漫画研究会に属する。お姉さん系年上キャラが好き。あだ名は鯖ミソ。
TS的不条理系ショートショート
鷲塚
【午後のシルベスタギブナベ茶は『胸がCカップで身長が159で性格は忍耐強くで年は13才でクラスでの立ち位置はオタク、役職は体育副委員長』です。】
あなたの人生かえたったー
薄暗いサークル棟の廊下を歩く佐波三十日のタイムラインにそんなツイートが飛び込んできたのは、午前の講義が終わったすぐ後だった。
(少し前に流行ったタグだな、女体化したったー系。先輩TS属性持ちだから、自分の願望を込めて診断してるの見え見えだっつうの)
午後のシルベスタギブナベ茶とは、漫研の先輩である座間真尋のハンドルネームである。部室のドアを開ければそこに13歳の美少女が居ればTS的に完璧であろう。
佐波が部室のドアを開けて部屋に入ると、正面に座っていた座間と目が合った。そして、何時もと同じ佐波を見るなり、
「流石に現実は厳しかったかーッ!」
座間が机に突っ伏して呪詛をはく様に言った。
「いやいやいや。人間、そう簡単には女体化しませんて……」
「何を言うか鯖味噌くん、友人のマッドサイエンティストが拵えたガジェットが周囲の人間を次々と女体化していく事など、もはやTS界では定番中の定番だろうが!」
そう言って、突っ伏したままの座間は自分のスマホの画面を佐波に向けた。
「え~と、何々……」
【佐波三十日は『胸がDカップで身長が151で性格は几帳面で年は13才でクラスでの立ち位置は中心人物、役職は生徒会会計』です。】
「な~に実名打ち込んでるんですか。まさかそのまま上げてませんよね?」
佐波はジト眼で机に突っ伏している座間をチラリと見てから自分のタイムラインを確認した。先ほどのツイート以降、午後のシルベスタギブナベ茶からのツイートは送信されていない。
「流石の僕もそこまでネットリテラシーに欠けてる訳じゃあないぞ。キミという後輩が女子だったならこの部室がさぞ華やかだったろうに、という願望を僅かながら満足させようと思っただけだ」
そこまで言って、座間は机から顔を上げた。そして、一呼吸置いて小首をかしげる。次に、ウムムと唸り始めた。なにやら目をこすり、眼を細めてじっと佐波の事を上から下まで観察していく。
「佐波くん、キミってそんなに小柄だっけか……」
絞り出すように言うと、パイプ椅子からスッと立ち上がった。本来ならば二人とも170辺りの身長で、さほど差がないはずなのだ。しかし、どう見ても二人には20センチほどの差が付いている。
「え? あ?」
佐波は訳もわからず素っ頓狂な声を上げ、座間を見上げていた。自分が変化したことを認識していなかった。並んで初めてその事に気がついたのだ。佐波は、座間が見ている前で徐々に変化していく。
「まさかッ!! 実際にッ!! この目でッ!! 変身TSの瞬間を拝めようとはッ! こうしてはおれん……」
まさに神速と言っても良い指裁きだった。座間は、スマホのブラウザを閉じてビデオカメラを立ち上げると佐波が変身していく様を撮り始めた。
「何やってるんですか、先輩! 後輩の一大事に冷静に撮影とか!!」
既に肩胛骨程までに伸びた黒髪を振り乱し、うわずる声で佐波が叫んだ。しかし、少し動いただけで胸がぷるぷる震えるのを感じて動かなくなってしまう。ぶかぶかになった服の中で、成長し続けていたおっぱいがついに自己主張し始めたのである。
「13歳でDカップゥ! く~っ、ロリ巨乳最高なんじゃあ~っ」
「いやいやいや。先輩、俺19ですからね!! 男ですからね!」
佐波がワイシャツを持ち上げる大きな胸を両手で抱えるようにして抗議するが、糠に釘、暖簾に腕押し、馬耳東風である。座間はするりと佐波の隣に位置取ると、くるりと華奢な肩に腕を回す。佐波の背筋に寒いモノが走り、全身の毛が逆立ったかのように感じた。
「ついに我が漫研に女子が入会することになるとは……。感無量!」
「だから、そのカップルがするような自撮りをやめい!!」
佐波がするりと座間の腕から逃れ、机を挟んで向かい合う。
「なあ~、仲良くしようぜぇ~。佐波ちゃぁぁぁぁん」
何かに取り憑かれたかのようにゆらりと身体を揺らせ、座間がゆっくりと近づいてくる。普段女子に縁がない男は、この様な状況にかくも豹変してしまものなのか。
迫り来る座間に、佐波はじりじりと後ずさりしながらスマホを操った。ブラウザを立ち上げ、”あなたの人生かえたったー”を検索する。座間が自分に見せた画面と同じサイトを確認すると、名前の入力欄に”座間真尋”と入力した。
「そこまでです、先輩!」
佐波が迫り来る座間の眼前にスマホの画面をビシリと翳した。座間の動きがピタリと止まる。
「佐波ちゃん。キミにそのボタンが押せるかな!」
一瞬二人の視線が合って凄まじい火花を散らす。座間は、一度、二度、三度と、ジャブを繰り出すように佐波のスマホに手を伸ばすが、同じテンポで避ける佐波のスマホを捉えられない。そんな事を数度繰り返して、向かい合った二人は肩で息をしていた。
「判った。佐波ちゃん。俺が悪かった。もう何もしないから最後におっぱい揉ませて」
佐波は、冷ややかな眼で座間を見やった。そして、なんの躊躇いもなく”診断する”ボタンを押す。
【座間真尋は『胸がEカップで身長が164で性格は先手必勝で年は16才でクラスでの立ち位置は頼られる人物、役職は役職についていません』です。】
「よかったですね、先輩。JKに変身できそうで」
「いや、俺はJK好きだが、自分がそうなろうとはこれっぽっちも思わんのだが」
そうは言っても既に座間の変化は始まっていた。
「あはは、先輩が変わるところ撮影しておきますんで」
テキパキとスマホを操作し、佐波はスマホのレンズを座間に向ける。
「あうあうあー。や、やめてくれ……」
後ろを向いて座り込む座間にレンズを向けていると、お尻が丸く膨らんでジーンズがピタリと吸い付いていく。
「ほらほら、先輩! こっち向いてください!」
佐波がくるりと正面に回ってみると、抱えた膝に柔らかな胸が押しつぶされているのがシャツの隙間から伺える。男物のぶかぶかシャツを着ているJK。先輩だと判っていてもなんかエロい、と佐波は思った。
座間はその後ぴくりとも動かなかった。腰まで伸びた髪の毛が床に付きそうなぐらいの所でフワリと揺れている。自分が変化した時間を考えると、完全に女性化しているはずである。
「あ~、先輩、先輩。大丈夫じゃあ無いとは思いますが、大丈夫ですか?」
佐波は、そっと座間の顔をのぞき込んだ。いや、のぞき込もうとした時にふらりと座間の顔が上がったのだ。伸びた髪の毛の奥で二つの瞳が怪しい輝きを放つ。
「そのおっぱい、もらったぁぁぁ!」
座間は、先手必勝とばかりに低空タックルをぶちかました。突然のタックルに転倒し、手から離れた佐波のスマホが部室の隅に転がっていく。そのまま座間はマウントポジションを確保するとニヤついた笑みを浮かべた。佐波の表情にサッと暗い影が落ちる。
「いやいやいや、自分の揉めばいいじゃないですか! 僕より大きいんだから!」
藻掻きながら必死に訴えるが、そんなこと座間はお構いなしだ。
「折角揉めるチャンスなのに、自分のを揉んでも楽しくないじゃないか」
「ほら、こういうのって順序があると思いません? お付き合いから始まって……」
貞操の危機を感じた佐波は必死に訴えるが、座間は満面の笑顔で首を振った。
「ですよねー……」
「いただきおっぱーーーい!」
「にゃああぁぁぁぁぁ!!」
この後二人は、めちゃくちゃやりまくってしまう訳だが、その音声が延々録音されていたことに気がついたのは後のことである。そして、その音声を巡り一波乱有ったのは言うまでもない。
おしまい
前のと何が違うんだと言われても、変身TSが好きなのだからこうなってしまうとしか言いようがない! こういう不条理系TSもTS界隈ではメジャー過ぎるので何か一工夫考えなきゃなあ……。 記憶が書き換わったり、精神の女性化が有ったりするとTS娘の魅力が薄れると思う今日この頃であった。