第35話:見舞い
■――見舞い――
「フィン」
医務室の扉を開くと、ミリアは一番奥のベットで静かに寝息を立てていた。
ヒロシはゆっくりミリアの隣に立つとそっと、
ミリアの顔にかかっている髪をそっとどかした。
ミリアの体にはあちこちに包帯が巻かれていて、痛々しく、ヒロシの心が少しきしんだ。
アリアは心配そうにミリアの顔を覗き込んでいたが、
「よかった・・・」
とヒロシがつぶやくと、
アリアも安心したようにヒロシの頬に手をかけて静かにため息をついた。
すると、扉の開く音がした。
ヒロシが振り向くとマーシャが花の入った花瓶を手に持って立っていた。
「顔でも見に来たの?」
「ああ」
マーシャは優しげな笑顔でヒロシに話しかけて、ヒロシは静かに答えると、
ミリアの横顔に視線を落とした。
その表情を見て、マーシャは花瓶を小さな机の上におくと、
「アリア、ちょっといいかしら?」
とアリアに話しかけた。
「何?マーシャはん」
と、アリアはマーシャの目の前に飛んでいった。
「ちょと話があるの」
マーシャはそういって、アリアを自分の肩に乗せた。
そしてヒロシにの肩をたたき、
「話したいことがあるなら、ちゃんと話なさい」
と言い、ゆっくりと医務室から出て行った。
すると、医務室の中は、規則的な機械音とミリアの静かな寝息だけしか聞こえなかった。
ヒロシはそばにあったイスを引き寄せて腰をかけて、
ミリアの寝顔を悲しそうにしばらく眺めていた。
点滴が刺さっている腕や、傷跡に張ってあるガーゼが痛々しかった。
そんな時、不意にヒロシは目を細めてゆっくりと口を開き、
かすかにミリアに呼びかけた。
「ごめんな・・・。こんなことになっちまって」
ピクリとミリアの表情がかすかに動いた。
「こんな怪我までさせてな・・・」
ヒロシはそういってミリアの頬をゆっくりとなでた。
「本当に・・・ごめんな・・・」
そういって、強くこぶしを握った。
握っていないと涙がこぼれてしまいそうだったから。
ヒロシは、歯を食いしばり、落ち着くのをまって深呼吸をすると、
「こんな、戦い。さっさとおわらせるからな・・・」
とミリアの横顔につぶやき、勢いよくイスから立ち上がり医務室の扉をくぐった。
ミリアは、どこと無くさびしげな表情で、寝息を立てていた。