第34話・移動
■――移動――
その後、アリアは少し悲しげな表情のまま
「その言葉、信じますよ・・・」
と言って、それ以上追求はしてこなかった。
訓練を終えてミリアの見舞いに行こうとアリアが言い出した。
特に断る理由もないので、二人で医務室に向かっている途中、装備をしたリング達に会った。
「よう」
「ども」
リングはいつものミッションに行くかのように、
気楽にあいさつをしてきて、
とてもこれから重大なミッションに行くとは思えない雰囲気だった。
「その隣の人は?」
赤いベースボールキャップをかぶった黒髪の女の人がヒロシの事をちらりと見て、
すぐに視線を手元の書類に落とした。
「ああ、こいつは・・・」
そう、リングが言おうとした時にその女性が、リングに書類を突きつけて、
「あなたに、説明されるくらいなら。私がする」
と、ヒロシの顔をまじまじと見て一度、頷くと耳についているイラーを取り外した。
「あっ、ちょっと」
「Hay!!makuro」
リングや色々な声が全て外国語に聞こえる。
(あ、頭いてぇ)
その女の人は、ヒロシの前でイラーをちらつかせて、
「私は、マクロ・ライヘン。よろしくね。同国出身者としても」
「え?」
この人、マクロさんの言葉は、聞きなれた言葉だった。
動揺で不覚にも呆けた顔をしてしまった。
マクロは、ヒロシの耳にイラーを戻しながら、少し頬に唇をつけた。
「な・・・」
「なななんな、なにを・・」
アリアが、思い切り怒りをあらわにしながらマクロをにらみつけた。
「あいさつよ」
何事も無かったかのように、ヒロシの横を通り過ぎていき、
マクロは軽く手を挙げてそのままいってしまった。
「全く、あいつはいつも大胆なんだよなぁ」
リングがあきれたようにマクロの後姿を見つめて、
「じゃあ、またな」
と、軽く言ってマクロの後を追っていった。
「なんなん、あの人!」
「さあ・・・」
ヒロシはボーっとマクロとリングが消えていった人ごみをジッと見ていた。
「・・・ヒロシはん?」
「ん?ああ。なんだ?」
「何、ボーっとしてるん?」
「いや、別に・・・」
ヒロシは、キスをされた頬を右手で少し触れた。
その様子を、アリアが不満そうに見つめて、
「そんなに、あの人が気になるん?」
「は?」
その瞬間、ヒロシの顔が一気に赤くなった。
すると、一層、アリアの目が不信に満ちて恨めしそうにこぶしを握ると、小声で、
「私に、あの力があれば・・・」
「ん?何か言ったか?」
「うぇ?言ってへんよ。何ゆうとんの?ヒロシはん」
と苦笑いを浮かべた。ヒロシは疑問に思ったが、
「これで、お遭いこな」
と、アリアに言うと、アリアは渋い顔をしながら小さく頷いた。