第33話・嘘
■――嘘――
あの後、誰にも会うことなく、ヒロシは訓練室で素振りをしていた。
「ヒロシはん。そんな思いつめたような顔で何するん?」
ヒロシはそういわれて、すぐに笑いを浮かべて、
「別になんでもないよ。ほんとに・・・」
「・・・嘘はないやろうな」
最近アリアがはっきり物を言うようになっていた。
「あ、ああ。ないよ」
疑っているような目でヒロシを見つめて来たが、ヒロシもうろたえながら見返すと、
「なら、ヒロシはんを信じるわ」
その言葉を聞き、また素振りを始めた時、
急にアリアがぼそっと何かをつぶやいた時、ヒロシは思わず、
剣をすっぽぬかして、壁に突き刺さった。
「「・・・・」」
アリアはすごい疑っているような目で、ヒロシを見つめていた。
「あ、ははは・・・。すっぽ抜かしちまった・・・。最近疲れてんのかな」
そういいながら、壁に突き刺さった剣を引き抜いた。
「嘘やろ・・・」
「え・・・」
ヒロシは出来るだけアリアと目をあわさないようにして、
「いやー、疲れたから今日はもう終わろうかなぁ」
とごまかそうとしたが、出来るはずも無く、
「ヒロシはん、行こうとしてるんやろ。あそこに」
「いや、そんなことないよ・・・」
「嘘やん。長いこと一緒にいたんやからそれくらいは分かりまっせ」
アリアの言葉がやけに胸に突き刺さった。アリアは悲しげにうつむき、
「そんなに、うちは頼りにならん?・・・」
そう、今にも泣きそうな声でヒロシに尋ねてきた。
ヒロシはつらそうに少し笑って、アリアの頭を少しなでると、
「お前はすごく頼りになるよ・・・だから、そんな声出さないでくれ」
そうつらそうにいった。
「なら、うちのことおいていかんといて。
行くとしても連れてって、じゃなきゃうちは・・・どうしたらええんよ・・・」
「ああ・・・わかったよ」
そういいながら、ヒロシは心の中で目の前のアリアに許しをこうた。
(ごめん、アリア。でも・・・決めたんだよ)
ヒロシは、悲しげな表情を浮かべてアリアにつぶやくように言った。
「だから、安心しろよ・・・」
ヒロシは嘘をついた。今までも何度か嘘をついたことはあるが、
これほどついてつらい嘘は初めてだった。